もう暗闇じゃない
Nature Reviews Cancer
2004年6月1日
抗癌剤ゲフィチニブに感受性を示すのが、一部の癌患者サブセットに限られるのはなぜだろうか。Thomas J. LynchらはNew England Journal of Medicineで、J. Guillermo PaezらはScienceで、この疑問の解明に光を当てている。ここで得られた所見は今後、ゲフィチニブによる治療に効果がある患者の選択に有用となりそうだ。
ゲフィチニブ(分子量の小さい上皮増殖因子受容体(EGFR)阻害因子)の早期臨床試験成績を前に、癌研究者も臨床医も色めきたった。そのデータから、ゲフィチニブは、EGFRが過剰発現することが多く、化学療法があまり奏功しない非小細胞肺癌(NSCLC)に作用することが明らかになった。しかし、大規模無作為化臨床試験では、NSCLC患者の少数のサブセットに反応がみられるにとどまった。迅速かつ劇的な反応がみられた患者は、最大で全体の10%であったため、ゲフィチニブは現在、NSCLCの第三選択薬に承認されている。
ゲフィチニブの有効性はEGFR発現とは相関していないため、Lynchらは、遺伝子内の変異が、反応者と無反応者を区別しているのではないかとの仮説を立てた。実際、ゲフィチニブに反応を示した患者9例を対象に、その腫瘍検体を検討したところ、8例のヘテロ接合性機能獲得変異が、EGFRのチロシンキナーゼドメイン内(ゲフィチニブが結合する活性部位)で群発していることが明らかになった。このうちの4例には、エキソン19内にインフレーム欠失が認められ、3例には、エキソン21内にアミノ酸置換が認められた。これらの患者の対応する正常組織には、以上の変異が認められず、ゲフィチニブに対する反応がなかった7例にも変異は認められなかった。またPaezらもEGFR における変異を調べるため、ゲフィチニブで治療した患者5例の試料を検討し、Lynchらの試験に類似した変異があることをつき止めた。
両稿とも、変異は特定の患者が有する特徴と相関し、これがつまりは、ゲフィチニブに反応を示す患者サブセットと相関することを示している。Paezらの試験では、日本人患者58例中15例が、腫瘍組織のEGFRに正常組織にはないヘテロ接合体変異を有したが、アメリカ人患者でヘテロ接合体変異が認められたのは、61例中1例のみであった。このことは、日本での早期臨床試験における奏効率が27.5%であったのに対して、後にヨーロッパで実施された試験での奏効率がわずか10.4%であったことを考えると、興味深い。このほか、両試験では、変異の存在と奏効した患者(細気管支肺胞腺癌患者、非喫煙患者および女性患者)との因果関係も認められているが、これもゲフィチニブに反応を示すことがわかっている患者サブセットである。
Lynchらはさらに、ミスセンスEGFR変異体L858R またはインフレーム欠失L747?P753insSを培養細胞系に導入すると、野生型受容体に比べてEGFによる受容体刺激が2〜3倍、変異受容体の活性化継続時間が12倍になることを明らかにした。また変異EGFRタンパク質は、ゲフィチニブによる阻害に対して野生型EGFRの約10倍の感受性を示した。Paezらが、白人で非喫煙者の女性肺腺癌患者の悪性胸水由来細胞系を調べたところ、その細胞はEGFRにL858R変異を有し、ゲフィチニブに対する感受性はほかの腺癌細胞系の50倍であった。
Lynchらは、EGFRにおける変異が薬物とキナーゼとの相互作用を安定させ、そのためにゲフィチニブの阻害作用が増大するとの仮説を立てている。以上のデータが、プロスペクティブな臨床試験で確認されれば、充実性腫瘍の標的治療を評価および利用するための基準が定まる。
doi:10.1038/nrc1376
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