糸口を求めてフィッシング
Nature Reviews Cancer
2004年6月1日
ゼブラフィッシュ(ミノカサゴ)を用いた大規模な挿入突然変異誘発スクリーニングにより、リボソームタンパク質が腫瘍形成に寄与していることが明らかになった。
Nancy Hopkinsらは、劣性致死突然変異に対してヘテロ接合であるゼブラフィッシュ約500系統を作り出した。多くの腫瘍抑制遺伝子が、劣性致死作用を引き起こすことから、明白な腫瘍を有するか、または生存時間の短い魚の系統を探し、腫瘍が好発する12系統を同定した。このゼブラフィッシュは大半が、悪性末梢神経鞘腫瘍(81%)およびほかの腫瘍を発生していた。
ある系統には、ヒトおよびマウスの腫瘍抑制遺伝子である神経線維腫症2型(NF2) に該当するゼブラフィッシュのパラログにヘテロ接合体変異があり、癌遺伝子を特定する方法して妥当であることがはっきりとした。驚くべきことに、ほかのどの系統にも、さまざまなリボソームタンパク質をコードする遺伝子にヘテロ接合体変異がみられた。この変異はいずれも、この遺伝子の発現を低減または阻害したことから、リボソームタンパク質は活性化腫瘍遺伝子産物として機能しないことがわかる。ヘテロ接合性の消失は認められなかったことから、Hopkins らは、リボソームタンパク質の量が減少するだけで、腫瘍形成に至ると結論付けている。
リボソームタンパク質の消失は、腫瘍形成にどのように寄与しているのだろうか。 Hopkinsらは、それぞれの系統の総リボソームRNA産生量が、(主として変異遺伝子産物が関与するリボソームサブユニットにおいて)低下していることを確認している。タンパク質の合成量が低下すると、重要な腫瘍抑制因子のレベルが低下するか、またはリボソーム生合成に必要な成分の産生を増やすよう細胞に信号が送られて、細胞増殖につながる。あるいは、リボソーム数が低下すると、リボソームに動員されるmRNAの特異性が変わり、増殖を促進するタンパク質をコードするmRNAの翻訳速度が変化する。このタンパク質は、リボソームでの役割以外に、まだ明らかにされていない機能をもっている可能性があるが、それほど多くのリボソームタンパク質に未知の重要な機能がある可能性は低い。
癌が生じるのは特定のリボソームタンパク質が消失した場合に限られ、ほかのものが消失しても何の影響もない。Hopkinsらは、癌に関連するタンパク質の特徴を何ら確認しておらず、発癌遺伝子産物は、大小いずれかのリボソームサブユニットに属していると考えられる。
このスクリーニングによりこれほど高率に悪性末梢神経鞘腫瘍が検知された理由と、特にリボソームタンパク質遺伝子が破壊されるに至った理由を明らかにするには、さらに研究を重ねる必要がある。しかし、ヒトの腫瘍を対象に検討すべき新しい遺伝子がいくつか得られており、この遺伝子によりリボソームタンパク質機能に変化が起こる可能性もある。
doi:10.1038/nrc1383
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