目的達成のための手段
Nature Reviews Cancer
2004年5月1日
化学療法薬の多くは、癌細胞のアポトーシスを引き起こすものであるため、この経路を破壊することが、腫瘍が薬剤耐性を獲得する主な方法である。たとえば、キナーゼAKTを介する生存シグナル伝達経路を活性化させる腫瘍は多い。Scott Loweらは、ラパマイシンを用いてAktシグナル伝達を破壊すると、リンパ腫モデルマウスの腫瘍の化学療法抵抗性が低下することを明からにしており、癌細胞傷害療法の有効性を高めるのにこの薬物が用いられる可能性がある。
細胞がアポトーシスに至るか、または生き延びるかの微妙なバランスを調節するシグナル伝達経路がいくつかある。最近では、キナーゼAKTおよびTORを経てシグナルを伝達するホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)経路が大いに注目されている。TORは、臨床では免疫抑制剤として用いられるラパマイシンにより阻害される。Loweらはマウスリンパ腫モデルを用い、ラパマイシン投与からAktシグナル伝達経路の阻害までを追った。
Aktが活性化すると、腫瘍形成が加速され、腫瘍がシクロホスファミドやドキソルビシンといった化学療法薬に対して不応となる。しかし、ラパマイシンによりAktシグナル伝達が遮断されると、腫瘍は化学療法薬に対して感受性を示すようになる。癌細胞は迅速にアポトーシスを来し、マウスは完全に寛解する。Loweらは、ラパマイシンがAktシグナル伝達経路に特異的に作用し、Bcl2など、ほかの抗アポトーシスタンパク質のアップレギュレーションにより化学療法抵抗性を獲得した腫瘍に対する作用はないことを明らかにしている。またラパマイシンは、単剤では効果がない。
AKT-TORシグナル伝達は、どのようにして細胞の生存を促進しているのだろうか。キナーゼTORは通常、リボソームタンパク質S6キナーゼp70S6Kや4E-BPタンパク質など、タンパク質合成機構の主要成分をリン酸化することによって、栄養素および増殖因子に応答した翻訳を調節している。リン酸化4E-BPはその後、翻訳開始因子eIF4Eを放出し、その結果タンパク質が合成される。では、eIf4eがこの癌モデルで構成的に活性化されると、何が起こるのだろうか。eIf4eが発現すると、Aktの場合と似た形でリンパ腫形成が加速され、この腫瘍は化学療法抵抗性をも獲得した。しかし、ラパマイシンには感受性を示さなかった。これはおそらく、eIf4eがTorの下流で作用しているためである。
ラパマイシンとその類縁体については、ほかの化学療法薬との併用で、臨床試験が実施されている。しかし、この試験では、この化学増感剤を患者に投与する前に、腫瘍遺伝子型を分析することを忘れてはならない。ラパマイシンはBCL2や eIF4Eをはじめとする生存促進タンパク質のアップレギュレーションによりアポトーシスを免れる腫瘍には作用しないのだ。
doi:10.1038/nrc1349
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