肝癌を化かす
Nature Reviews Cancer
2004年5月1日
肝細胞癌(HCC)に対する標的治療は、この癌に寄与する機序が依然としてよくわかっておらず、開発が困難である。Robert Costaらは現在、HCC発生にはFoxm1b転写因子が不可欠であり、Arfペプチドによって阻害できることを明らかにしている。
Costaらは、HCC誘発化学物質であるジエチルニトロソアミン(DEN)およびフェノバルビタール(PB)をマウスに投与した。野生型マウスでは、腫瘍形成前に肝細胞核でFoxm1bの発現が増加し、HCCにおいても高レベルが維持された。Foxm1bヌル肝細胞をもつマウスでは、腫瘍が発生しなかった(肝細胞には前新生物性変化の徴候が認められたが、増殖はしなかった)。では、Foxm1bはどのようにして肝細胞増殖を促進するのだろうか。
Foxm1b は、細胞周期プロモーターであるサイクリン依存性キナーゼ1(Cdk1)を活性化するCdc25bの発現を調節する。 DEN-PBで処理したFoxm1b欠損肝では、Cdc25bの発現が大幅に低下した。またFoxm1bが過剰発現すると、細胞周期の進行を阻害する Cdk阻害因子Kip1 (p27でも知られる)の核移行が大幅に減少する。Costaらは、DEN-PBで処理したFoxm1b欠損肝細胞の核ではKip1の蓄積が維持されることを突き止めた。すなわち、Foxm1bの消失によってCdk阻害因子Kip1が核内に蓄積し、Cdc25bレベルが低下することで、肝損傷に応じて肝細胞増殖が妨げられる。
Foxm1bによるKip1活性の阻害は、逆もまた真である。Foxm1b活性は、 Cdk-サイクリン複合体との相互作用を必要とすることがわかっている。共免疫沈降法により、Foxm1bのCdk-サイクリン複合体との結合部位を変異させるとKip1との結合が妨げられたため、Kip1はFoxm1b が動員したCdk-サイクリン複合体と結合することがわかった。Kip1発現ベクターと野生型Foxm1bをともに導入した骨肉腫において、Foxm1b の転写活性の低下が認められたことから、この相互作用はFoxm1b転写活性を阻害していることがわかる。
腫瘍抑制因子Arf (p19でも知られる)の発現はDEN?PB処理によって誘導され、CostaらはArfもFoxm1bと相互作用していることを突き止めた。Arfの 26-44 アミノ酸を含み、細胞内取り込みを改善するよう修飾されたペプチドは、Foxm1bと結合して核小体へこれを輸送し、その転写活性を阻害するのに十分であった。しかも、骨肉腫におけるFoxm1bの条件付き過剰発現は、軟寒天では足場依存性増殖を促進するが、このArfペプチドによって細胞毒性を起こすことなく阻害された。
この研究から、Foxm1bはHCC形成に必要であり、ArfはFoxm1b機能の治療的阻害因子として有効であることがわかった。この戦略が前臨床試験および臨床試験でも有用かどうかが明らかになるのは、まだ先の話である。
doi:10.1038/nrc1350
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