Research Highlights

逆に作用する

Nature Reviews Cancer

2004年5月1日

EPHファミリーの受容体型チロシンキナーゼは、いくつかのヒト悪性腫瘍に関与しているが、どのように発癌に寄与しているのかはほとんどわかっていない。Elena Pasqualeらは現在、EPHB4が、腫瘍の内皮細胞にある膜結合リガンドを介してシグナルを伝達することで、腫瘍の血管新生を助長すると報告している。

EPHB4は、乳癌の発生に関与すると考えられるが、腫瘍増殖に対して正負いずれの作用があるのかに関しては、相反する証拠がある。Pasqualeらはこのことを検討するため、EPHB4リガンドであるエフリンB2の可溶型でMDA- MB-435ヒト乳癌細胞(EPHB4を発現する)を処理した。受容体の触媒作用は刺激されたが細胞増殖は阻害されたことから、EPHB4キナーゼ活性は腫瘍の進行に必要でないことがわかる。

しかし、EPHB4はキナーゼドメインを介するシグナル伝達のほか、その細胞外ドメインを隣接する細胞のエフリンB2に結合させることによって、作用を導入することができる。エフリンB2は、細胞質シグナル伝達ドメインを有する膜貫通タンパク質で、EPHB4との結合によって活性化する。このEPHB4によるキナーゼ非依存性「逆シグナル伝達」には、腫瘍増殖における役割があるのだろうか。Pasqualeらはこのことを検証すべく、MDA-MB-435細胞にキナーゼ欠損型EPHB4を導入した。この細胞をマウス乳腺脂肪体に注入した結果として形成された腫瘍は、対照細胞によって形成された腫瘍に比べて増殖が有意に速かった。

エフリンB2を介したEPHB4逆シグナル伝達は、発生時の血管増殖に関与していることから、ドミナントネガティブEPHB4の腫瘍形成促進活性は、血管新生の増大によるものと考えられる。これと一致するように、キナーゼ欠損型 EPHB4を発現するMDA-MB-435細胞由来の腫瘍は、対照構造を導入した細胞由来の腫瘍よりも血管が大きく血液量も多い。さらに、エフリンB2が MDA-MB-435由来腫瘍に関連する血管に発現していたことから、腫瘍細胞のEPHB4には内皮細胞のエフリンB2との相互作用によって血管新生を助長する可能性があることが明らかになった。

Pasqualeらは細胞遊走アッセイで、キナーゼ欠損型EPHB4を導入した MDA-MB-435細胞が、エフリンB2を発現するヒト内皮細胞を誘引することを明らかにしている。可溶型のEPHB4細胞外ドメインを用いても同じ結果が得られていることから、腫瘍細胞に発現するほかの化学誘引物質がこの作用の原因となっている可能性はない。細胞外ドメイン構造はこのほか、コラーゲンゲルを介した内皮細胞浸潤を助長することから、EPHB4逆シグナル伝達は、エフリンB2発現内皮細胞による腫瘍の浸潤および血管新生を助長するのに十分であることがわかる。

この研究は、腫瘍の血管新生機序および抗癌療法の新しいターゲットの可能性について、新たな見識をもたらす。エフリンB2シグナル伝達がどのように内皮細胞遊走を助長するか、ほかの血管新生経路とのクロストークがあるかどうかは、今後研究を行う上で重要な問題となる。

doi:10.1038/nrc1348

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