ヒーロー?それとも悪役?
Nature Reviews Cancer
2004年4月1日
相反する証拠から、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ(PPARγ)が腫瘍に対して阻害作用または刺激作用のいずれをもつかについては、これまで混乱を来していた。Ronald Evansらは現在、Pparγシグナル伝達がマウスの乳癌形成を助長することを示しているが、それは遺伝学的にその腫瘍を生じやすい動物に限られるとしている。
PPARγは、乳癌を含むヒトのいくつかの癌において過剰発現する。この受容体の活性化因子がラット乳癌モデルの腫瘍発生を阻害することから、PPARγシグナル伝達の刺激が抗癌治療として有用であることがわかる。しかし、PPARγ活性化因子は、その受容体が発現していない細胞の増殖までをも抑制しながら、マウス大腸癌モデルの腫瘍発生は増大させる。このような混乱を打開するには、 PPARγシグナル伝達がさまざまな腫瘍発生にどのように寄与しているのか、さらによく知る必要がある。
Evansらは、乳癌上皮に構成的活性型Ppar を発現するトランスジェニックマウスを作成した。このマウスの乳腺発生は正常で、腫瘍が発生しやすいようにはみえなかった。そこでEvansらは、このマウスを、乳腺組織にポリオーマウイルス中型T抗原(PyV-MT)を発現し、雌では平均57日という速さで腫瘍が検知されるマウスと交配した。活性化 PparγもPyV-MTも発現している雌は、乳腺腫瘍の発生が加速され、出現までの平均期間はわずか37日であった。すなわち、Pparγ活性が高くても正常な乳腺組織には腫瘍が形成されず、腫瘍が発生しやすい背景があるときに腫瘍形成が助長されるのである。
乳癌の発生時にWntシグナル伝達が増大するということは、Pparγは、この経路を活性化させることで腫瘍発生に寄与しているのだろうか。Wnt標的遺伝子サイクリンD1およびc-Mycは、 PyV-MTのみを発現するマウスと比べ、PyV-MTおよび構成的活性をもつPparγを発現するマウスにおいてアップレギュレートされることがわかった。発現の増大はWnt経路の構成要素である -カテニンのほかWnt受容体frizzled homologue 4にも認められたが、Wntシグナル伝達の負の調節因子であるWnt5aはダウンレギュレートされていた。
この研究により、腫瘍形成におけるPparγの役割に関する理解が大幅に深まったが、重要な疑問がいくつか残されている。たとえば、Pparγシグナル伝達が遺伝子的に感受性のある細胞の乳腺腫瘍発生のみを助長するのはなぜか、 PparγとWntシグナル伝達経路との相互作用はどのようなものか、などである。この研究はまた、以前の研究で示されたPparγリガンドによる腫瘍形成の阻害がこのタンパク質の受容体とは無関係な作用によるという提案を裏付けるものでもある。PPARγと癌との結びつきに確かな判断が下るまで、さらに研究を重ねる必要があるのは明らかである。 .
doi:10.1038/nrc1334
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