細胞死を混乱させる
Nature Reviews Cancer
2004年4月1日
癌細胞は、 (しばしばアポトーシス経路の構成要素に欠陥をもたらし) 細胞死に抵抗性を示すことで、抗癌剤治療を乗りきることができる。Donald Kufeらは現在、Cancer Cell で、ほとんどの癌で起こるMUC1過剰発現は、癌細胞が死を免れる新しい方法ではないかと報告している。
MUC1 は小胞体内で切断され、N末端およびC末端を含むヘテロダイマーを形成して、細胞表面に集まる。上皮増殖因子受容体(EGFR)によってチロシン46 (Y46)をリン酸化されたC末端は -カテニンに結合し、EGFRとWNTシグナル伝達経路を連結する。MUC1陰性HCT116大腸癌細胞に形質移入すると、野生型MUC1のC末端は、細胞表面のほかミトコンドリアにも集まることがわかった。しかし、MUC1 Y46F変異体のC末端は、リン酸化されず、ミトコンドリアに認められたものはきわめて少なかった。ヘレグリン(EGFではない)が、野生型MUC1のC 末端のミトコンドリア局在化をさらに促進した。
それでは、ミトコンドリア膜と結合しているMUC1のC末端には、どのような機能があるのだろうか。ひとつには、ミトコンドリアからのシトクロムc放出によって作用する内因性アポトーシス経路を調節している可能性がある。化学療法薬シスプラチンなどのDNA傷害因子でHCT116細胞を処理すると、24時間以内に約40%がアポトーシスを来した。これは、シトクロムc放出の増大およびプロカスパーゼ3の切断など、さまざまな細胞下変化によるものである。こうした変化は、MUC1 Y46F変異体ではなく野生型MUC1が発現すると減弱され、細胞はアポトーシスを起さない。しかもMUC1は、TRAILが外因性細胞死受容体経路を通じて誘発するアポトーシスをも減弱させる。
MUC1のC末端のミトコンドリア局在化は、大腸癌細胞に限らず、MUC1を内生的に発現する肺癌細胞や乳癌細胞にもみられる。こうした細胞のMUC1をRNA干渉法によりダウンレギュレートすると、シスプラチンおよびエトポシドといった化学療法薬に対して感受性をもつようになる。
しかし、MUC1はin vivoで抗癌剤感受性に影響を及ぼすのだろうか。ヌードマウスに、MUC1を発現する細胞か、またはそうでない細胞のいずれかを皮下注入したところ、腫瘍が形成された。このマウスをシスプラチンで処理したが、MUC1を発現しないマウスにおいてのみ、腫瘍増殖が阻害された。
以上のことから、MUC1は抗癌剤に対する細胞の感受性に影響を及ぼすようである。MUC1を標的にして、抗癌剤の有効性を増大させる方法は、これが過剰発現する癌細胞において、重要な戦略となりうる。
doi:10.1038/nrc1325
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