Research Highlights

救いの手

Nature Reviews Cancer

2004年4月1日

血管新生時に腫瘍が動員する内皮細胞が抗癌薬の重要なターゲットであると認識されて久しいが、血管新生阻害因子は、臨床使用に承認されはじめたばかりである。Judah Folkmanらは現在、Nature Medicineで、このうちのひとつ(TNP-470)をコポリマーに結合させると、薬物の有効性が増大し、毒性が低下すると報告している。

TNP-470は、有力なin vitro 内皮細胞阻害因子であり、マウスの原発腫瘍および転移腫瘍は、ほとんどがその成長を阻害される。しかし、用量を抑えざるを得ない神経毒性があるために、その有効性を臨床で発揮することができない。Folkmanらは、TNP-470とHPMAコポリマーとを結合させた。このコポリマーは、透過性の高い腫瘍血管に取り込まれ、リンパ管に排出されにくいためにそこに蓄積される水溶性合成ポリマーである。またHPMAコポリマーには免疫原性も毒性もない。抱合型 TNP-470が内皮細胞のリソソーム環境に入ると、酵素(腫瘍内皮細胞で過剰発現するカテプシンBなど)が、このポリマーと薬物とのリンカー配列を切断し、作用薬が放出される。この抱合型薬物の作用は、in vitroの遊離型TNP-470のものとほぼ同じで、いずれも内皮細胞を傷害し、ヒヨコ大動脈におけるMatrigelアッセイでは、血管が「発芽」するのを阻害した。

次にFolkmanらは、肝再生が血管新生に依存していることから、マウス肝切除モデルを用いて、遊離型と抱合型とを比較した。対照マウスは、術後8日目までに切除した肝臓が 1.2 g再生したが、薬物を隔日に皮下投与すると増殖が阻害され、8日目までの再生は0.7 gにとどまった。遊離型薬物とは異なり、HPMAコポリマー-TNP-470は、4日ごとに投与しても、肝切除当日に単回投与しても再生を阻害することから、抱合型は循環期間が長いか、または増殖する内皮細胞の近くにより多く蓄積されていることがわかる。

それでは、HPMAコポリマー?TNP-470は、腫瘍増殖の阻害についても、遊離型薬物よりも有効性が高いのだろうか。ルイス肺癌腫(LLC)を皮下にもつマウスに両薬物を静注すると、抱合型はLLCの増殖を86%阻害し、遊離型は 67%阻害した。遊離型TNP-470は、投与から1〜2時間にわたって血清中から検出されたが、この時点で腫瘍からは検出されなかった。これに対して、 HPMAコポリマー-TNP-470は、48時間にわたって血清および腫瘍から検出された。遊離型は低用量でも体重低下を招き、1日量が多いと毒性がきわめて高い。Folkmanらは、LLCモデルでは遊離型が血液-脳関門を通過し、神経学的副作用を引き起こすことを明らかにしている。遊離型はこのほか、脾臓および肝臓からも検出されている。これに対して、HPMAコポリマー-TNP-470は高用量を投与しても、体重は低下せず、脾臓、肝臓および脳のいずれからも検出されず、神経学的機能に対する影響も見られなかった。

TNP-470とHPMAコポリマーとを結合させることにより、この阻害因子の治療指数は大幅に向上する。ほかのポリマーと薬物との抱合型が、臨床試験で将来性をみせており、HPMAコポリマー-TNP-470についても臨床試験の段階に進むことが目標である。

doi:10.1038/nrc1326

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