Research Highlights

有力な提携

Nature Reviews Cancer

2004年4月1日

多発性骨髄腫 (MM) (通常は骨髄に限定される難治性のB細胞癌)の早期段階では、癌細胞が骨髄基質に依存して、成長および生存に必要なシグナルを与えている。Louis Staudtらの驚くべき発見により、MMではc-MAF腫瘍遺伝子の過剰発現が一般的で、このために細胞増殖および腫瘍細胞と基質細胞との相互作用が増大することが明らかになった。

StaudtらはDNAマイクロアレイを用いて、原発性MM腫瘍ならびにMM細胞系のパネルを調べた。対象となった試料の50%にc-MAF の過剰発現が認められたが、正常な形質細胞には認められず、c-MAFの過剰発現はMMに一般的な事象であることが明らかになった。c-MAFを発現するMM細胞と、そうでないものとの遺伝子プロフィールを比較したところ、c-MAF存在下では細胞接着タンパク質インテグリンβ7、細胞周期調節因子サイクリンD2、ケモカイン受容体CCR1の発現が増大していた。この3つのタンパク質の発現が、c-MAFによってアップレギュレートされることが示されたわけである。

このサイクリンD2プロモーターはc-MAF結合部位をもち、ルシフェラーゼレポーターアッセイでは、c-MAFによる活性化が見られたことから、c-MAFは細胞周期の進行に影響を及ぼすものと思われる。これをさらに追究すべく、c- MAF がない通常のMM細胞でこれを発現させたところ、細胞分裂およびDNA合成が増大した。これに対してc-MAF陽性細胞の分裂は、優性阻害型c-MAFにより低下した。細胞死は増大していなかったため、c-MAFは細胞分裂周期開始を促進するものと思われる。in vivoでも同じ知見が得られ、優性阻害型c-MAFは免疫不全マウスにおいて、c-MAFを発現するMM細胞の腫瘍形成を妨げた。

骨髄基質との相互作用はMMの発達に特に重要であるが、この相互作用には何が介在しているのであろうか。MM細胞のc-MAFに誘発されたインテグリンβ7 が、基質細胞表面にあるEカドヘリンと結合するということは、c-MAFを発現するMM細胞はEカドヘリンと結合するのであろうか。c-MAFを構成的に発現する細胞は、Eカドヘリンでコートした平板培地に付着したが、c-MAFが発現していない細胞系は付着しなかった。同様にc-MAFを発現する細胞は、そうでない細胞に比べて2.5〜3.5倍、骨髄基質細胞へ付着しやすかった。Eカドヘリンおよびインテグリン 7に対する抗体が、上のような相互作用を遮断したことから、インテグリンβ7とEカドヘリンとの相互作用により、c-MAFが骨髄腫細胞と骨髄基質との接着を増強することが裏付けられた。

基質細胞がMM細胞に影響を与える方法のひとつが、増殖因子の発現である。 Staudtらは、基質細胞とc-MAFを発現するMM細胞とを共存培養すると、腫瘍の増殖および血管新生を調節する血管内皮細胞増殖因子(VEGF)が増大することを明らかにした。抗体によりこの誘発がなくなったことからわかるように、この応答はインテグリンβ7とEカドヘリンとの相互作用に依存していた。

以上をまとめると、c-MAFはMM-基質細胞間相互作用を変化させて、MMの増殖に重要なVEGF発現を増大させる。また、サイクリンD1の産生を通じて増殖を促進する。CCR1にもMM細胞に対する作用があるかどうかは、まだ明らかにされていない。この重大な発見により、MMの複雑な生物学の解明が始まり、腫瘍細胞と基質細胞との相互作用を増大させる新しいクラスの腫瘍遺伝子が同定された。このため、c-MAFを標的にすることが将来のMM治療法につながると考えられる。

doi:10.1038/nrc1324

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