小さな変化で大きな作用
Nature Reviews Cancer
2004年3月1日
抗癌療法の有効性を予測するにはSNP(一塩基多型)が有用であるが、このDNAの小さな変化が、いかにしてこのように重要な結果をもたらすかをはっきりと示す証拠はない。Kyoung-Jin Sohnらは、北アメリカ人の約35%にみられるメチレンテトラヒドロ葉酸レダクターゼ(MTHFR)のC667T多型に焦点をあて、変異酵素が癌細胞における葉酸の濃度および分布に与える影響によって、葉酸拮抗薬の抗癌剤感受性が変化することを明らかにした。
MTHFRは5,10-メチレンTHFを5-メチルTHFに転換する。MTHFRの 667T型は活性が弱いため、5,10-メチレンTHFが蓄積する。Kyoung-Jin Sohnらは、この多型によって、葉酸拮抗薬の5-フルオロウラシル(5-FU)およびメソトレキセート(MTX)(いずれも乳癌および大腸癌の治療に広く用いられている)の有効性が変化するかどうかと、この多型と薬剤の既知の作用機序との相関を検討した。
Kyoung-Jin Sohnらは、内在性667C MTHFR をもつ大腸癌およぴ乳癌の細胞系に667T型MTHFRを導入した。酵素活性は667T MTHFR細胞の方が35%低く、葉酸の細胞内分布も変化していた。すなわち、5-メチルTHF値が約12%低下し、5,10-メチレンTHF値が約 10%上昇していたのである。この細胞は667C型細胞よりも増殖が速かったが、これはおそらくDNA合成に5,10-メチレンTHFが必要であるためと考えられる。
では、667T型MTHFR細胞は、葉酸拮抗薬に対してどの程度の感受性があるのだろうか。Kyoung-Jin Sohnらは、チミジル酸シンターゼおよび5,10-メチレンTHFとともに阻害複合体を形成して作用する5-FUの効果が癌細胞における多型の存在によって増大すると仮定したが、これはin vitroでも異種移植モデルでも実際に起こった。それとは逆に、5,10-メチレンTHF値を下げて作用するMTXの効果は多型によって減弱すると考えたが、これもまた本当であることが乳癌細胞系で確認された。667T型大腸癌細胞のMTXに対する化学的感受性は変わらなかったが、大腸癌は通常MTXに反応しないため、驚くことではない。しかも興味深いことに、アンチセンスをMTHFRに導入してMTHFRの発現と活性をより完全に阻害すると、大腸癌細胞はMTXに対してさらに強い耐性を示した。
以上のデータは、C677T MTHFR多型が化学療法に反応して機能した結果を示す証拠となり、この多型が、癌患者にテーラーメードの化学療法を行うのに有用な薬理遺伝学的マーカーであるという見解を裏付けている。
doi:10.1038/nrc1309
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