あべこべな世界
Nature Reviews Cancer
2004年3月1日
腫瘍抑制因子は通常、細胞増殖を抑制するが、逆に作用するものがある。Chun-Ming ChenとRichard BehringerはGenes & Development 2月号で、それが増殖の欠陥を引き起こすOVCA1の消失であること、その消失とp53の消失が重なったときにだけ、その腫瘍抑制活性が解き放たれることを報告している。
卵巣癌を引き起こす遺伝子は大部分が未知であったため、17番染色体に頻繁に消失する領域を同定したのは、大きな掘り出し物であった。それ以来、OVCA1遺伝子がここに存在することがわかったが、腫瘍抑制因子として作用するとはまだ示されていない。ChenとBehringerは以前に、マウスのオルソログを同定し、その後研究を続けてOvca1の機能を解明した。
Chen とBehringerはノックアウトマウスを作製したが、いずれも発生途中または出生後間もなく死亡した。胚は発達異常を呈し、全般的に小さかった。野生型マウスの腎被膜にその卵巣を移植すると、その後の長期にわたる発達が可能となり、小さいながらも正常な発達を遂げ、癌の証拠は認められなかった。
発育異常の原因は、増殖の減少またはアポトーシスの増大によるものと思われるため、Ovca1- ヌルマウス胚繊維芽細胞(MEFs)を樹立してこの疑問に答えを出した。MEFsはあまり増殖しなかったが、sub-G1期集団がなく、アポトーシスが起こったのではないかと思われる。細胞周期分析ではS期の細胞が少ないことが明らかになり、これがリン酸化Rbの減少と一致していることから、細胞がS期に入ることができないのはそのためと考えられる。
しかし、これは腫瘍抑制因子消失の特性としては珍しく、だとすれば、チェックポイントを取り除くことにより細胞がこの増殖の欠陥から立ち直ることはできるのだろうか。ChenとBehringer は、 Ovca1-/-Trp53+/- MEFsもS期集団が少ないが、Ovca1-/-Trp53-/- MEFsは正常に増殖することを明らかにした。しかし、p53が消失しても、発達異常から解放されることはなく、マウスは依然として出生後まもなく死亡する。
次に重要な疑問は、Ovca1がin vivoで本当に腫瘍抑制因子として作用しているかどうかという点である。 Ovca1+/-マウスのほぼ60%が、2年以内にさまざまな腫瘍を発生し、その潜伏期間は平均92週間であった。これが Ovca1+/-Trp53+/-マウスでは52週間に短縮し、発生率は72%に増大した。重要なことに、Ovca1対立遺伝子のひとつが消失すると、Trp53+/-マウスと比べて腫瘍の発生率が高くなり、 Ovca1+/-Trp53-/-マウスとTrp53-/-マウスとは腫瘍発生率が同じであるが、Ovca1対立遺伝子をひとつ失うと腫瘍が多様化するマウスが増えた。Ovca1ヘテロ接合マウスでは、腫瘍スペクトルも、いくぶん異なっている。
以上のことから、細胞周期進行の正の調節因子としての役割とは裏腹に、OVCA1は確かに腫瘍抑制因子のようである。OVCA1が正常細胞でどのように機能しているのか、それがp53と同時に消失した場合にどのように腫瘍進行を加速するのかを正確に知るには、さらに研究を重ねる必要がある。
doi:10.1038/nrc1308
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