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摩擦解消

Nature Reviews Cancer

2004年3月1日

ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)ファミリーに属する受容体の活性は、さまざまな腫瘍に関与してきたが、そのうちのひとつ (PPARβ/ )からは、矛盾した証拠が得られている。このためRaymond DuBoisらは、大腸癌モデルマウスとPparβ/δ選択性アゴニストを用いて、腫瘍増殖におけるPparβ/δの役割をより明確に示した。

PPARsは、核内ホルモン受容体として機能するリガンド活性化転写因子のファミリーである。PPARβ/δは発達、創傷治癒、脂肪酸代謝および炎症反応の抑制に関与している。さらに重要なことに、PPARβ/δの発現および活性は大腸腺腫性ポリポーシス(APC)の腫瘍抑制因子が消失すると増大し、PPARβ/δが大腸癌の成因に関わっていることがうかがえる。これを裏付けるように、ある研究では大腸癌細胞系のPPARβ/δの両対立遺伝子が消失すると、腫瘍の増殖が遅くなることが判明した。しかし、別の研究報告によると、 Pparβ/δが破壊されても、Apcmin マウス(大腸癌に進行する腸ポリポーシスのモデルで、Apcが変異している)のポリープ形成に影響が及ぶことはなかった。このためDuBoisらは、この問題を別の方向から(ApcminマウスをPparβ/δ選択性アゴニストGW501516で処理することによって)検証した。

Pparβ/δは、正常腸上皮およびApcminマウスの腺腫の双方において、主に腸上皮細胞に発現する。このマウスをGW501516で処理すると、小腸ポリープ数は2倍になったが、結腸ポリープ数に変化はなかった。また Pparβ/δアゴニストで処理したマウスでは、2 mmを上回るポリープが5倍に増加したことから、Pparβ/δの活性化は、ポリープ形成ではなく、ポリープ増殖速度に影響を及ぼすと考えられる。さらにこのようなマウスでは、ポリープの異形成の程度がやや高く、先の段階へ進行していることがわかる。

Pparβ/δの活性化は、どのようにして腫瘍増殖を促進するのであろうか。in vitroでは、GW501516に大腸癌細胞増殖に対する作用はなかったが、用量依存的にアポトーシスを抑制した。DuBoisは、Pparβ/δが腸上皮細胞の抗アポトーシス経路を活性化することによって、腸腺腫の増殖および発生を刺激するという結論に至っている。

PPARβ/δの活性化リガンド(GW501516など)は、異常脂質血症症候群、肥満およびアテローム性動脈硬化の治療薬として開発の後期段階にあることから、この所見は診療医にとって重要な意味をもつ。(APC変異によって大腸癌の発生率が高くなる)家族性腺腫性ポリポーシス患者の癌リスクが増大するため、PPARβ/δアゴニストは慎重に投与する必要がある。

doi:10.1038/nrc1304

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