阻害を克服する
Nature Reviews Cancer
2004年3月1日
アポトーシス抵抗性が発癌に影響力をもつ経路として浮上して以来、腫瘍に正常細胞と同じ運命をたどらせない機序をターゲットにすることが、有力な抗癌戦略であるとされてきた。Cancer CellでJohn Reedらは、アポトーシスにおいて重要な「ブレーキ」を取り除く低分子阻害因子が、どのようにして腫瘍からその不死性を取り去るかを具体的に明らかにすることによって、この原則の妥当性を確認している。
プログラムされた細胞死の決定的なエフェクターは、プロテアーゼのカスパーゼファミリーである。通常は、カスパーゼを抑制するアポトーシス阻害因子(IAP)ファミリーのメンバーがカスパーゼに結合し、必要とされるまでそれを不活化している。カスパーゼは腫瘍において過剰発現するが、IAPも過剰発現するため、カスパーゼを活性化することができず、アポトーシス抵抗性が生じる。
そこでReedらは、百万個前後の化合物ライブラリをスクリーニングし、特徴が最もよくわかったIAPのひとつ、XIAPに結合するものを調べた。XIAPは、アポトーシス経路の遠位段階(ミトコンドリア依存性/非依存性刺激によって活性化される細胞死経路の収束部)でアポトーシスを阻害する。
同定されたポリフェニル尿素系化合物8個は(カスパーゼ-3およびカスパーゼ-7の不活化の原因となる)XIAPのBIR2ドメインに結合し、カスパーゼ阻害を無効にした。(XIAPはこのほか、上流のBIR3領域を通じてイニシエーターカスパーゼ-9を抑制するが、Reedらはさらに下流の機序をターゲットにすることにした。)
この8個の化合物のうち最も活性が大きいものは、さまざまな腫瘍細胞系および原発の白血病細胞においてin vitroでアポトーシスを誘発するが、正常細胞にはほとんど毒性を示さなかった。これらの化合物はまた、抗癌剤であるエトポシド(VP16)、ドキソルビシン(Dox)およびパクリタキセル(タキソール)に対して腫瘍細胞を感作した。不活性構造類似体に、上記腫瘍細胞に対する作用はなかった。
XIAP拮抗物質による細胞死誘発は、普遍的なカスパーゼ阻害因子zVAD-fmkによって遮断され、XIAPを過剰発現させることによって抑制された。しかし、上流のアポトーシス抑制因子Bcl-XLおよびCrmAの過剰発現が細胞死に影響を及ぼすことはなく、アポトーシス経路のこのような遠位点をターゲットとすると、腫瘍におけるアポトーシス調節機序の上流にある欠損の多くが無視されることがわかる。また、XIAP拮抗物質を少量投与すると、マウスの異種移植モデルに定着した腫瘍の増殖が抑制されたが、正常細胞に対する毒性はほとんどなかった。
以上の結果から、腫瘍は本来カスパーゼの活性化を促進すること、IAPsを阻害すると腫瘍にアポトーシスが起こるが、正常細胞に対する作用はごくわずかであることがわかる。XIAP拮抗物質は確立された抗癌剤との併用が可能で、in vivoにおける腫瘍増殖抑制能をもつことから、単剤または併用療法剤として上記化合物の薬物動態および毒性プロフィールを検討することは理に適っている。
doi:10.1038/nrc1312
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