癌の理解を加速する
Nature Reviews Cancer
2004年3月1日
ところで、発癌率は加齢と共に増大する…ではなかっただろうか。そう言われて久しく、それにほぼ間違いはないが、多くの組織における発癌率は、期待された直線の対数-対数プロットから外れている。最近Current Biologyに掲載された論文でSteven Frankは、数理モデルを用い、乳癌および前立腺癌にみられる標準プロットからの逸脱を、組織におけるクローン拡大および細胞系譜数から説明しうる方法を探っている。
典型的な対数-対数曲線はそれぞれの年齢における発癌率を示しており、Frankはまず、各ポイントで発癌率曲線の勾配をプロットした。これにより、年齢特異的な癌の加速度がわかる。ただし加速度は、症例頻度が加齢と共に増す速さを示しているため、症例頻度が増大しても加速度は減少する可能性がある。加速度プロットによると、乳癌は若年期に最も迅速に加速し、その後加速度は加齢と共に着実に低下していく。これに対し、前立腺癌の加速度は 40歳のピークに向けて迅速に増大し、それ以降は同じく迅速に低下していく(図参照)。Frankはまず、特定数の律速変異が細胞系譜内で起こると癌が生じることをモデル化した一般的な一連の方程式を考案した。この標準的な多段階モデルは、一生涯を通じて一定の加速度を与えるものと考えられる。Frank は次に、期待される一定加速度からの逸脱が見られたことについての説明を試みた。
Frankは、年齢が高くなると加速度が低下するのは、個々の細胞系譜に変異が蓄積するため、腫瘍発生型になるまでの段階がより少ないことが原因ではないかという仮説を立てた。組織に存在する系譜数がこれに影響していると考えられる。系譜数が多ければ、形質転換するのはわずかであるため、ほとんどの変異が 0になると思われる。しかし、系譜数が少なければ、総発生率を同一にするために、より多くが癌化へ向けての何段階かを進む必要がある。このため、各系譜における変異数は多くなり、これが加速度の低下と一致しているものと思われる。これとよく似た乳癌の状態は、ほかの組織よりも幹細胞が少ないか、または隣接する細胞系譜を犠牲にして前癌性の細胞系譜が頻繁に拡大するかのいずれかが原因で、組織の細胞系譜が減少していることによって説明できる
細胞集団のクローン拡大はまた、癌加速度にも影響及ぼしうる。たとえば、拡大速度が遅ければ、細胞系譜が次の律速変異を獲得する速度は、経時的に緩やかに加速し、加速度は人生半ばでピークとなる。クローン拡大が迅速であるほど、加速度は早期にピークとなる。また、クローンの大きさが増すと、加速度のピークは高くなるが、その程度は限られている。細胞がある程度の数に達している場合は、すぐにでも変異が起こる可能性がきわめて高いため、それ以上クローンが拡大しても、それ以上速度が増大することはない。最後に、クローン拡大の回数も、癌加速度に影響を及ぼしうる。クローン拡大が3回起こると、(さまざまな変異が増殖の波を引き起こすため、)最大加速度が大幅に増大し、前立腺癌にみられる中年期に高い癌加速度の説明がつく。
Steven Frankはその論文で、単に既知のプロセスを詳しく示しているだけではない。由来組織の種類によって年齢特異的な癌加速度が異なるという観察結果を検討し、これを説明するモデルを提示している。可能性のある問題解決法はこれらにとどまらないが、以上の仮説の検証に用いることができる具体的な実験を示唆し、考えられる代替法を示唆している。数理モデルのこのような有効利用は、ほかの発癌プロセスの理解にも役立つはずである。
doi:10.1038/nrc1306
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