ダブルの作用
Nature Reviews Cancer
2004年3月1日
血管新生阻害因子には、抗癌療法としての可能性が大いにあるが、現時点では、臨床試験の成績は期待はずれなものである。Shoukat DedharらはCancer Cellで、インテグリン結合キナーゼ(ILK)には腫瘍血管新生における重要な役割が2つあることを明らかにし、抗血管新生療法の新たなターゲットとして期待がもてると報告している。
血管内皮増殖因子(VEGF)は腫瘍血管新生にきわめて重要で、腫瘍細胞によって産生され、内皮細胞の増殖と遊走を促進する。VEGF発現は、ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)経路によって促される。PI3Kは、 AKTのリン酸化および活性を刺激し、その結果、低酸素誘導性因子1α(HIF1α)などの転写因子の合成が増大し、VEGF発現がアップレギュレートされる。
ILKはPI3K経路においてAKTの直接の上流にあるため、Dedharらは、腫瘍血管新生にそれも必要であるかどうかを調べた。対照細胞と比較して、ラット小腸上皮細胞におけるIlkの過剰発現はVegf発現の増大につながっており、AKTのリン酸化レベルおよびHif1αを介する転写が増大した。逆に、短い干渉性RNA (siRNA)をILKに誘導すると、Vegf発現が抑制された。Dedhar らはまた、PC3ヒト前立腺癌細胞系においてもIlkが高レベルのVegf発現に必要であることを示し、さらに、これにはAktのターゲットである mTORの活性化が関与していることを明らかにした。すなわちILKは、腫瘍細胞にVEGF発現促進能を与えるAKT活性への作用において重要な役割を担っている(図参照)。
Dedhar らは、抗血管新生療法としてのIlk阻害能をみるため、PC3細胞およびDU145細胞(別の前立腺癌細胞系)をILK阻害因子に曝露した。これにより、VegfおよびHif1αの発現はいずれも、用量依存的に抑制された。
ILK は増殖因子に応答して細胞運動を促進することが知られているため、Dedharらは、ILKがVEGFを介した内皮細胞の遊走および血管発生において機能しているかどうかを調べた。ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVECs)をVEGFに曝露すると、ILK活性が増大することがわかった。この作用はPI3K阻害因子によって遮断されたため、 PI3Kに依存してのものであることもわかった。さらに、ILK機能を阻害すると、VEGFに応答したHUVECsの遊走および増殖が抑制された。 Dedhaらはこのほか、2種類の標準アッセイにより、ILK阻害因子がVEGF刺激性血管新生を遮断することも明らかにした。
マウスの異種移植モデルによって、ILK阻害因子のin vivoでの作用も検討されている。ヌードマウスにPC3細胞を注入し、腫瘍が十分に安定したマウスをILK阻害因子で治療した。治療マウスは未治療マウスと比べ、腫瘍関連血管の密度が低下し、腫瘍量が減少したうえ、明白な副作用は認められなかった。以上の結果から、ILKには腫瘍血管新生における役割が 2つあり、抗癌療法の有用なターゲットとなりうることがわかる。
doi:10.1038/nrc1303
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