転移への鍵
Nature Reviews Cancer
2004年2月1日
原発癌の転移は癌患者の主な死因であるため、そのプロセスに重要な蛋白質の同定が必要不可欠である。現在2つのグループがNature Medicineで、エズリンが転移癌においてアップレギュレートされ、転移プロセスへの鍵になっていることを報告している。
Glenn Merlinoらは横絞筋肉腫モデルマウスを用いて、マウスに注射した際に高い転移性、または低い転移性を示す細胞系を樹立した。さらに、マイクロアレイ発現プロファイリングを行い、発現の仕方が異なる遺伝子を同定した。転移細胞系においてきわめて過度に発現(ウエスタンブロットおよびノーザンブロットにより確認)した2つの遺伝子は、エズリンおよびホメオプロテイン転写因子Six1をコードするものであった。
しかし、それが本当に転移に寄与しているのだろうか。転移性の低い細胞系でいずれかの遺伝子が過度に発現すると、マウスにおけるその転移能は数倍にもなる。同じく、転移性の高い細胞系で遺伝子が破壊されると、その転移能は減退する。興味深いことに、Six1の過剰発現はエズリンの発現を誘発すると見られ、これら2つの転移因子の関連性がうかがえる。同じくヒト横絞筋肉腫でも上記転移因子の発現が増大しており、病期と相関関係にある。
過去に転移関連遺伝子を見出すためのゲノムスクリーニングでエズリンを同定した Lee Helmanらは、エズリンを(アンチセンス法またはそれを閉鎖型立体構造のまま維持するリン酸化変異体によって)破壊すると実験マウスの骨肉腫系の転移が減少することを示し、その必要条件を確認した。
さらに、単細胞蛍光イメージング法を用いて、転移プロセスで肺に到達した細胞のその後を追跡している。エズリンが抑制された細胞がまもなくアポトーシスを遂げたところをみると、エズリンはアノイキスを阻害するのだろうか。エズリンがアノイキスを阻害すると、細胞は肺のなかで生き延び、その組織に付着すると考えられる。Aktおよびマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)経路は、アノイキス阻害に関わっていることがすでにわかっており、エズリンがその活性を低下させることが示された。エズリン抑制細胞においては、活性化された AktではなくMAPK経路の構成的活性成分(Mek)が、転移を部分的に再構成できた。
最後にHelmanらは、ヒトとの関連性がより強い(ヒトにより近い)ペット用のイヌを用いて、高転移性の特発性骨肉腫におけるエズリンの発現を調べた。エズリンは原発腫瘍の83%に過剰発現し、その発現強度は腫瘍の悪性度と相関していた。予備的な解析ではヒトの小児骨肉腫でも同様のことが判明している。したがってエズリンは転移の重要な調節因子であり、今後も研究を重ねる必要がある。
doi:10.1038/nrc1288
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