解き放たれたp53
Nature Reviews Cancer
2004年2月1日
転写因子p53は、細胞を悪性転換から防御する重要な経路をコントロールしている。しかし、多くの癌では通常MDM2が過剰発現し、それがp53のトランス活性化ドメインと結合してその転写活性能を遮断するために、この防御活性のスイッチが切られている。このため、MDM2のp53への結合阻害がこれまでに抗癌戦略として提案されており、Scienceに最近掲載されたある論文も、MDM2-p53相互作用の低分子アンタゴニストが癌細胞のp53経路を活性化させてマウスの腫瘍増殖を阻害することを示し、上のことを裏付けている。
蛋白質間相互作用は従来、接合面に明確な結合ポケットがないなどの問題から、低分子薬物送達にとってきわめて難解なターゲットであるとみられていた。しかし、p53のトランス活性化ドメイン由来のペプチドに結合したMDM2の結晶構造から、MDM2には比較的深いポケットがあり、そこにp53ペプチドのらせん領域がはまっていることが明らかになったため、p53の代わりにこのポケットに結合できる低分子を同定できるという期待が浮上した。そこでVassilevらは、MDM2とp53との結合阻害能を調べるために蛋白質間相互作用の解析に適した表面プラズモン共鳴を用いて様々な化合物ライブラリをスクリーニングし、ナノモル範囲のIC50でMDM2との複合体からp53を置換する一連の cis-イミダゾリン類縁体を発見した。この化合物のうちのひとつは、MDM2との複合体におけるその結晶構造から、p53結合部位に結合していることが確認された。
癌細胞に基づく様々なアッセイでイミダゾリン類縁体を分析したところ、この類縁体が p53経路を活性化し、細胞周期を停止させてアポトーシスを引き起こすことを示す強力な証拠が得られた。このことで弾みがつき、Vassilevらはこの類縁体のひとつが樹立された腫瘍異種移植片の増殖をマウスにおいて抑制するかどうかを評価した。経口投与されたこの化合物は認容性にすぐれ、腫瘍増殖を媒体対照との比較で90%抑制する結果となった。ちなみに、従来の細胞毒性薬剤ドキソルビシンを最大耐量静注した場合の抑制は81%であった。
ヒトの腫瘍の〜50%は野生型p53が欠失しているため、p53-MDM2相互作用の阻害因子による影響はないと思われるが、Vassilevらの実験からは、野生型のp53が保持されている残り〜50%では、上記のような化合物による p53の腫瘍抑制能活性化が有益であることがわかる。さらに一般的には、低分子阻害因子を用いれば蛋白質間相互作用を上手く標的にできることを Vassilevらが明らかにしたことで、この難しい目標を追求して増加しつつある研究プログラムに希望が与えられる。
doi:10.1038/nrc1293
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