BRCA2:破壊を防ぐ
Nature Reviews Cancer
2004年2月1日
腫瘍抑制遺伝子BRCA2が変異すると、遺伝子が不安定となって癌化しやすくなる。しかし、正常細胞ゲノムの完全性保護におけるBRCA2の機能は、はっきりとはわかっていない。Ashock Venkitaramanのグループによれば、BRCA2は停止した複製フォークの破壊を防ぐのに必要であり、この機能が破綻すると、BRCA2変異細胞が分裂する際に自然に起こる染色体再構成につながる。
正常な複製機構の一部ではないが、BRCA2は複製が阻害されると形成される核内フォーカスに局在している。ではBRCA2は、複製の停止に対する細胞応答で機能するのだろうか。Venkitaramanらは、Brca2が短縮変異して非機能蛋白質を産生する標的遺伝子Brca2Trのホモ接合型マウス細胞におけるDNA合成を遮断して、上のことを調べた。リボソームDNA(rDNA)座でYアーチ(複製フォークで形成されるDNA構造) を視覚化するのには、2次元ゲル電気泳動法を用いている。ヒドロキシウレア(HU)を用いて複製を阻害すると、Brca2 Tr/Tr細胞からはその構造が消失したが野生型細胞には残っており、Brca2は停止した複製フォークの安定に必要であることがわかった。
複製欠損性細菌では、停止した複製フォークが破壊されて線状の染色体断片となっていることがある。Brca2機能が消失した結果として、これと類似したプロセスが起こったのであれば、この遺伝子が変異した結果として遺伝子不安定性が生じる説明がつく。このことを調べる目的で、Venkitaramanらはパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)を用いて、rDNA座における複製フォークの破壊によって生じると予想されるDNA断片が産生されるかどうかをみた。この座の染色体DNAは通常、大きすぎてPFGEでは視覚化できない。しかし、HU処理したBrca2 Tr/Tr細胞では、rDNA複製フォークでの破壊に適合する断片が認められた。Brca2不活化のこの作用はrDNA遺伝子に限られるものではなく、ほかのゲノム座でもこれに類似した破壊が起こることがわかった。重要なのは、HUで処理しないBrca2 Tr/Tr細胞にもDNA切断がみられることである。このことは、Brca2機能の消失が、正常な複製中に(DNA損傷が原因であったり、もともと停止する部位であったりして)停止する複製フォークの安定に対して、複製の全停止に応答する場合のものに類似した作用をもつことを示す。
哺乳動物の細胞は、DNA複製停止に応答して、早期分裂を予防するChk2依存性チェックポイント機構を活性化させる。複製停止に応答したBrca2の役割は、このチェックポイントの活性化にあるのだろうか。Venkitaraman らは、HUで処置したBrca2 Tr/Tr細胞は早期に分裂期に入らないことを突き止め、活性化、リン酸化したChk2がこの細胞に存在していることを明らかにした。すなわち、 Brca2は、Chk2の下流で機能しているか、または独立した経路の一部として機能している。
Brca2不活化の結果としての複製フォークの破壊は、ヒトの疾患とDNA複製停止に対する応答異常との関連性を示す一例である。癌化傾向に染色体不安定性が関わっているほかの状態の根底にも類似のメカニズムが存在するかどうかを調べるのは興味深い。
doi:10.1038/nrc1282
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