Research Highlights

CAV1結合

Nature Reviews Cancer

2004年2月1日

転移の過程では、組織微小環境の変化によって癌細胞が腫瘍から離散する。上皮増殖因子受容体(EGFR)の過剰発現およびEカドヘリン(細胞間接合部の主成分)のダウンレギュレーションはいずれも、細胞間相互作用を途絶させることがわかっており、

ony HunterらはCancer Cellで、これらのプロセスを結び付けるのは、カベオラ関連の蛋白質、カベオリン1(CAV1)であると報告している。EGFRの過剰発現は最初にEカドヘリンのカベオリン依存性細胞内移行を引き起こすだけでなく、最終的にはCAV1蛋白質量を低下させることでβカテニンシグナル伝達系を活性化し、Eカドヘリン発現をダウンレギュレートする。

 EGFRを過剰に発現した癌細胞はEGFに応答し、細胞間結合の消失および細胞の脱分極によって上皮−間葉系変換を起こす。A431ヒト癌細胞では、このプロセスの早い段階でEカドヘリンの迅速な細胞内移行が起こっているが、EGFはCAV1の再分布を誘発することが知られているため、著者らはこの細胞内移行にカベオラが介在しているかどうかを詳しく調べた。カベオラの主成分であるコレステロールの化学的除去がEカドヘリンの細胞内移行を妨げたことから、カベオラは細胞表面におけるEカドヘリンのダウンレギュレートに必要で、細胞間接着の迅速な消失の原因であることがわかる(図参照)。

 E カドヘリンは通常、細胞間接合部でβカテニン(WNTシグナル伝達系の主成分)と結合しており、免疫蛍光検査ではEGF処理した細胞の表面でβカテニンが減少していることが判明した。さらに、βカテニンの量がこの細胞の核内で増加していたことから、βカテニンが細胞表面から離れたために核転座が起こり、β カテニン-TCF/LEF1ターゲット遺伝子の転写が増大した可能性がある。実際、EGF処理したA431細胞ではc-MYC(βカテニン-TCF/LEF1経路のターゲット)が多く発現し、EGFRを発現した293T細胞ではEGFによってβカテニン特異的ルシフェラーゼレポーター活性が増大していた。すなわち、EGFにはβカテニンターゲット遺伝子の転写を誘発する働きがある。

 EGF への長期曝露による二次作用は、A431細胞におけるCAV1およびEカドヘリン転写の著明な減少であった。アンチセンスRNAの発現によってCAV1がダウンレギュレートされると、Eカドヘリン転写のリプレッサーとして知られるSNAIL転写因子の発現が増大し、EGFR処理した293T細胞のEカドヘリン量が減少した。さらに、CAV1に対するアンチセンスRNAが発現することにより、EGFRを発現した293T細胞におけるβカテニン特異的レポーター構成物の転写は増大したが、野生型CAV1が発現すると、レポーターの基礎活性もEGFによる活性も阻害された。すなわち、EGFによるβカテニン転写活性には、CAV1のダウンレギュレーションが必要である。A431細胞におけるEGFRシグナル伝達を阻害すると、上皮―間葉系変換作用が逆転し、細胞は互いに密に接着してCAV1およびEカドヘリンを発現した。このことは、これら2つの蛋白質のダウンレギュレーションにおいて、EGFRがきわめて重要な役割を担っていることを裏付けている。

 最後に、in vitroコラーゲンゲル法を用いて、CAV1がEGFを介する腫瘍細胞浸潤に関与しているかどうかを明らかにした。CAV1に対するアンチセンスRNAはEGF非存在下でA431細胞の浸潤を著明に増大させ、この作用はEGF処置によってさらに高まった。この研究は、CAV1がどのようにEGFを介する腫瘍細胞浸潤を支配し、EGFおよびWNTの両シグナル伝達系を関連付けているかに関する重要な識見をもたらしている。

doi:10.1038/nrc1283

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