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Nature Reviews Cancer
2004年2月1日
腫瘍細胞が腫瘍抑制因子を不活化する方法の1つに、細胞下の局在化誤りによるものがある。たとえば一部の癌細胞では、正常な状態で細胞増殖を抑制する転写因子のフォークヘッド(FOXO)ファミリーが機能はしているものの、核から細胞質へ輸送されている。Pam Silverのグループは、FOXOの核外輸送を妨げ、細胞周期を停止させる化合物を捕捉するスクリーンを開発した。
FOXOの局在化は、PI3K-PTEN-AKTシグナル伝達系が調節する。いくつかの腫瘍ではPTENが突然変異を起こすために、その脂質ホスファターゼ活性が消失し、AKTシグナル伝達が恒常的に活性化する。AKTはFOXO転写因子をいくつかの部位でリン酸化し、核外移行を促進することでその転写活性を妨げている。FOXO1Aを強制的に核内へ移行させるとPTEN-欠失細胞の腫瘍発生能がなくなることを示した研究があることから、Silverらは、FOXO1A核外移行の阻害因子を捕捉する細胞ベースの化学スクリーンを開発した。FOXO1Aの局在化をビジュアルアッセイとして用い、PTEN-欠失細胞の核へFOXO1Aを移行させる能力について、18,000種類を超える化合物をスクリーニングした。このうち89種類がFOXO1Aを核内に保持することがわかり、そこから42種類を選択してその特徴をさらに詳しく調べた。
この42種類の化合物のうち19種類は、ヒト免疫不全ウイルスrev蛋白質(別の核因子)の核外輸送をも遮断することができたため、「一般的な核外輸送阻害因子」であると考えられたほか、蛋白質を核内外に往復させる輸送受容体CRM1の活性に干渉することで機能していることもわかった。残る23種類は、 AKTシグナル伝達系に沿ったいくつかのポイントでFOXO1Aの核外輸送を遮断するのみであった。
上記化合物のなかには、カルモジュリン阻害因子として作用するトリフルオペラジンもあった。これを受けて、著者らがPTEN- 欠失細胞をほかのカルモジュリン阻害薬で処理したところ、そのいずれによってもFOXO1Aが再び核内へ移行することがわかった。これは、カルモジュリン依存性のFOXO1A局在化調節メカニズムを初めて報告するもので、カルモジュリンがAKTシグナル伝達系と相互作用することを示している。
以上のように、このスクリーンで同定された化合物はFOXO1Aを核内に留めるが、腫瘍の増殖にはどう影響するのであろうか。発見された核輸送阻害因子のうち30種類はこのほか、PTEN- 欠失癌細胞の増殖をも遮断した。しかし、輸送阻害因子を癌治療に用いるには、さらに研究を重ねる必要がある。CRM1を介する核外輸送を遮断する薬物 LMBは、第I相臨床試験の段階ですでに毒性が高いことがわかっている。このため、この毒性がCRM1に及ぼす作用とリンクしているのか、それともほかにリンクしている活性があるのかを(この毒性が薬剤のCRM1に対する効果に関連するのか、または他に考えられる活性に関連するのかを)知ることが重要になってくる。
とはいえ著者らは、このスクリーンで同定された阻害因子のなかに、新しい抗癌薬のリード化合物となるものがあることを期待している。
doi:10.1038/nrc1285
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