Research Highlights

少ないほうがうまくいく?

Nature Reviews Cancer

2003年12月1日

化学療法剤を長期にわたって低用量で頻繁に投与するメトロノーム型投与法は、従来 の化学療法による有害な副作用を減少させる。この投与法は癌細胞を直接殺すのでは なく、内皮細胞の増殖を抑えて血管形成を抑制する。なぜ新しい血管の内皮細胞がこ の投与戦略の特異的な標的になるのかという謎が、Guido Bocci、Robert Kerbelらに よって解明されつつある。血管新生を阻害するトロンボスポンジン‐1(TSP1)とい うタンパク質から考えると、化学療法剤は少ない方がうまくいく。

Bocciらは、微小血管内皮細胞が発現する遺伝子群の解析から着手し、内皮細胞を抗 腫瘍剤のBAL-9504に長期間さらすとTSP1遺伝子の発現量が増加することを見 いだした。試験管内での実験でもこの観察結果が確認され、BAL-9504で処理した細胞 ではTSP1タンパク質の発現量が増加し、このタンパク質は細胞培養液中にも分泌され ていた。化学療法剤によるメトロノーム型処理が内皮細胞の増殖を抑制して細胞の生 存率を低下させる効果は、TSP1に特異的な中和抗体によって部分的に打ち消された。 したがって、TSP1タンパク質が試験管内でのメトロノーム型処理に対する応答を調節 していると考えられる。しかし、TSP1タンパク質は生体内でも類似の影響をもつのだ ろうか。

Bocciらは、以前に詳細に解析された低用量のシクロホスファミドを毎日投与する治 療法を野生型マウスとTsp1遺伝子欠損マウスに施し、生体内での血管新生を 評価した。シクロホスファミドの投与を開始して7日後にマウスを観察したところ、 野生型マウスでは新しい血管系の新生が有意に減少していたが、Tsp1遺伝子 欠損マウスにはこの影響はみられなかった。したがってTsp1タンパク質は、生体内で メトロノーム型投与法による血管新生抑制効果を成立させるのに必要だと考えられた。 Tsp1タンパク質の欠損は腫瘍増殖にも影響を及ぼすかどうかを調べるため、増殖速度 が速い腫瘍細胞を野生型マウスとTsp1遺伝子欠損マウスに注入した。最初に マウスに最大耐用量(耐えられる最大量)のシクロホスファミドを投与したところ、 両系統のマウスで腫瘍増殖が遅くなった。次に低用量のシクロホスファミドを投与し たところ、腫瘍増殖が減少したのは野生型マウスだけだった。つまり、Tsp1タンパク 質が欠損しても最大耐用量のシクロホスファミドに対する応答には影響しないが、メ トロノーム型化学療法の効果は抑えられた。

試験管内で細胞にメトロノーム型処理を行ったあと可溶性のTSP1タンパク質の分泌が 観察されたので、医療現場でメトロノーム型化学療法の効果を監視する代理標識とし てTSP1を使えるかもしれない。ヒト腫瘍を有する免疫系欠損マウスに種々の化学療法 剤をメトロノーム型で投与すると、20日後にすべてのマウスに腫瘍抑制効果が見られ た。この腫瘍抑制応答は、Tsp1タンパク質/腫瘍容量比の2〜6倍の増加と相関関係に あったので、Tsp1タンパク質の増加が腫瘍の大きさの減少と同時に起こると考えられ た。

Bocciらの研究から、メトロノーム型化学療法の腫瘍抑制効果と血管新生抑制効果を 調節する機構を理解する最初の手がかりが得られたことになる。また、医療現場で患 者がこの治療戦略にどのように応答しているかを監視する道具としてTSP1タンパク質 を使えるかもしれない。

doi:10.1038/nrc1241

「レビューハイライト」記事一覧へ戻る

プライバシーマーク制度