補助的切断
Nature Reviews Cancer
2003年12月1日
急性前骨髄性白血病(APL)は前骨髄球の蓄積を特徴とするが、造血過程がこの特定の段階でなぜ影響を受けるのかはよくわかっていない。Andrew LaneおよびTimothyLeyがCell誌で報告しているところによると、前骨髄球は白血病誘発を促進するプロテアーゼを多量に発現している。
APL 患者の90%以上に、PML-RARα融合タンパク質の発現をもたらすt(15;17)染色体転座が認められる。この融合タンパク質の機能を調べるため、LaneとLeyは種々の型の骨髄性細胞と非骨髄性細胞でこのタンパク質を一過性に発現させ、このタンパク質が前骨髄球細胞系においてのみ速やかに切断されることを観察した。LaneとLeyはさらにこの細胞特異的なタンパク質分解について検討し、好中球でELA2遺伝子からつくられる好中球エラスターゼ(NE)がPML-RARα融合タンパク質を切断することを明らかにした。ELA2遺伝子の転写は骨髄性細胞の発生初期に活性化され、前骨髄球の段階の初期に発現量が最大になる。LaneとLeyの観察によると、ヒトのAPL細胞はELA2遺伝子を発現しており、マウスとヒトのNEは両方とも、マウス由来とヒト由来の両方のPML-RARαタンパク質を切断することができる。
ところで、このプロテアーゼは白血病誘発に重要なのだろうか。遺伝子導入によって前骨髄球でPml-Rarα融合タンパク質を発現するようにマウスを改変処理すると、全マウスが350日以内にAPLを発症した。ところが、NE遺伝子が完全に欠損したマウスの前骨髄球でこの融合タンパク質を発現させた場合、 350日以内にAPLを発症したマウスは45%にすぎなかった。したがって、Pml-Rarα融合タンパク質がAPLを発症させる能力にはNEが重要である。APL発症への影響はNE遺伝子欠損マウスに特異的で、セリンプロテアーゼのカテプシンGが欠損したマウスにおけるPml-Rarα融合タンパク質の発現はAPL発症に影響しなかった。
PML-RARα融合タンパク質がAPLを発症させるには、初期の骨髄性細胞に存在する因子との相互作用が必要だとする証拠がいくつかある。NEは、長い間探求されてきたAPL発症を補助する因子なのかもしれない。PML-RARα融合タンパク質が切断されるとこの癌の発症に重要な修飾型タンパク質ができるのではないか、とLaneとLeyは述べている。細胞内でこの融合タンパク質の切断が起こる部位および切断によって生じる産物の機能を特定するには、さらに実験が必要である。それでも、NE阻害剤をAPL治療薬として試せるかもしれない。
doi:10.1038/nrc1240
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