Research Highlights

形質転換を起こす組合せ

Nature Reviews Cancer

2003年12月1日

ヒトの細胞は、形質転換が顕著に難しい。がん遺伝子が2つだけで形質転換を引き起こせる齧歯類と異なり、ヒト細胞はいくつもの遺伝的傷害を必要とし、傷害としては、癌抑制経路にかかわるp53やRBを妨害するSV40のラージT抗原とスモールT抗原など、ウイルスの癌タンパク質も含まれる。今回Cancer Cell誌にGordon Petersらが報告したところによると、たった4つでヒト二倍体繊維芽細胞を形質転換できる新しい組合せの遺伝的変更が見つかり、しかもp53経路はそのまま残っているという。

培養ヒト細胞は、ストレスに誘導されてINK4A依存性細胞周期休止を起こすので、PetersらはINK4Aを特異的に欠失しているLeiden細胞で形質転換の誘導に必要な遺伝的傷害を調べた。Petersらは以前に、テロメラーゼのサブユニットTERTで不死化したこれら細胞にがん遺伝子HRASを導入し(LTR細胞)、固着に依存しない細胞集団を育てている。今回はこの観察を拡張し、LT細胞にMYCのみ(LTM)、もしくはMYCとRAS(LTRM)を発現させた。これらは0.2%アガロースゲル中で増殖し、同じく固着せずに成育できた。ウエスタンブロット解析により、p53経路の構成成分ARF、p53、WAF1(p21ともいう)が発現しており、細胞はp53チェックポイントを乗り越える。

したがって、LTR、LTM、LTRMはいずれも固着非依存の細胞集団を形成できるわけだが、完全な形質転換を遂げたのだろうか。LTRM細胞だけが形質転換の表現型を示し、ヌードマウスの皮下に注入したところ腫瘍を生じた。ただし、接種したうち16分の5のみが腫瘍を生じ、潜伏期間は比較的長く(59〜98日)、ほかにも変更が起こっている可能性がある。腫瘍細胞の表現型は、組織培養に再度播種して確かめた。細胞は接着性が減少しており、自己分泌性の増殖因子を生産して低濃度の血清中で増殖した。腫瘍はまたp53とその標的、MDM2とWAF1を多く発現していた。腫瘍が p53経路の機能を維持しているとすると、腫瘍によくみられる異数性も避けているのだろうか。複合蛍光in situハイブリッド形成法と比較ゲノムハイブリッド形成法を組み合わせたところ、細胞は二倍体ではあるが2つの変化(18番染色体と20番染色体)がしばしば観察された。

これらの結果からまだ答えのない疑問が浮かんでくるが、形質転換の機構と帰結を調べる生理学的な出発点がもたらされ、マウスとヒト細胞で起こる進行の相違をいくつかが強調されたことになる。

doi:10.1038/nrc1238

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