しがみつく
Nature Reviews Cancer
2003年10月1日
「おぼれる者は藁にもすがる」というが、人生には必死になってしがみついて助かる場合がある。ところが、急性骨髄性白血病(AML)細胞の場合、 AML細胞が骨髄ストロマ(造血支持)細胞にしがみつくと、化学療法による細胞死に抵抗するようになり、患者が生存する可能性が低くなるようだ。 MatsunagaがNature Medicine誌に報告したところによると、AML細胞表面のVLA4というβ1インテグリンとストロマ細胞表面のフィブロネクチンの相互作用が、AML患者の微少残存白血病(MRD)の発症と治療後の経過に重要な役割を果たしている。
Matsunaga らはβ1インテグリンのVLA4とVLA5を発現する2つのAML細胞系、U937およびHL60を用いた研究で、培養細胞がフィブロネクチン被覆容器に接着しているとフィブロネクチンの被覆のない容器で培養した場合よりも、抗癌剤のダウノルビシンとシトシンアラビノシド(AraC)で処理した後に、足場の消失に起因するアポトーシス(アノイキスanoikisという)に抵抗性になることを示した。細胞の生存能力、アポトーシス経路にかかわるアネキシン V、カスパーゼ3、BCL2およびホスファチジルイノシトール3‐キナーゼタンパク質の発現量の増大におよぼす影響で調べたところ、 VLA4に対する抗体はこのアポトーシス抵抗性を打ち消したが、VLA5に対する抗体にはこの影響はみられなかった。
抗−VLA4抗体はまた、AML細胞を体内に接種した重症複合免疫不全(SCID)マウスのMRDを消失させた。VLA4抗体をAraCとともにマウスMRDモデルに投与すると、AraCを単独投与したマウスよりも平均生存率が有意に高くなった。では、VLA4発現はMRDを発症したAML患者にどうかかわってくるのだろうか。20人の患者から採取したVLA4陽性白血病細胞をダウノルビシンまたはAraCの存在下でフィブロネクチンとともに培養したところ、VLA4陰性の白血病細胞をもつ10人の患者由来の細胞よりも生存能力が高かった。 VLA4陽性細胞をVLA4抗体とともに培養すると、抗体無添加で培養した場合よりも抗癌剤に対する感受性が高くなった。患者から採取したVLA4陽性白血病細胞を移植したSCIDマウスにVLA4抗体とAraCを投与したところ、MRDはまったく検出されなかった。VLA4陽性細胞を移植してVLA4抗体を投与しなかったマウスにはMRDがみられた。
さらにMatsunagaらは25人のAML患者の治療後の経過を解析し、15人のVLA4陽性患者の完全奏効率(60%)は10人のVLA4陰性患者の完全奏効率(100%)に比べて有意に低く、VLA4陽性患者の再発率(55.6%)はVLA4陰性患者の再発率(0%)より高いことを示した。考えられるすべての危険因子(年齢、性別、機能状態尺度、白血球数、芽球数など)を調査した中で、VLA4陽性の性質だけが奏効率、再発率および生存率に対して有意に不利に働いた。
したがって、VLA4は医療現場で使える指標になる可能性があり、VLA4に対する抗体はMRDの治療に有用かもしれない。今後、被検患者数をふやしてさらに研究を進め、Matsunagaらの結果を確認する必要がある。
doi:10.1038/nrc1196
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