差異を見分ける
Nature Reviews Cancer
2003年10月1日
学校の先生には生徒を見分けるという大変な仕事があって、受けもちの学級でほかの生徒よりも成績優秀または出来が悪くて特別な配慮が必要かもしれない生徒に気づかなければならない。腫瘍も同じで、正確に診断すれば病状に合わせた治療の恩恵を受けるかもしれない特定の腫瘍を識別するのもやはりむずかしい。Andreas RosenwaldらのグループとKerry Savageらのグループが今回、非ホジキンリンパ腫のびまん性大B細胞リンパ腫(DLBCL)に属する原発性縦隔B細胞リンパ腫(PMBL)という1亜型を遺伝子発現解析を利用して明確に見分けられることを示した。臨床徴候と形態学的特徴だけを用いたPMBLの診断は不正確で、治療後の経過がはっきり予測できない。2つの研究グループはPMBLを識別する特徴となる分子を考案し、DLBCL患者由来の標本を用いて予測の判断材料にした遺伝子群の妥当性を立証した。Rosenwaldらが示したところによれば、特徴的分子によって同定したPMBL患者の5年生存率(64%)はDLBCL患者全体の5年生存率(46%)よりも高く、これまでの臨床報告の結果が確認された。
両グループはまた、PMBLとホジキンリンパ腫(HL)の特徴となる分子には顕著な類似性がみられることを示した。この2つのB細胞悪性疾患の臨床所見が類似することは、すでに知られている。Savageらは、特定遺伝子群の濃縮という新しい遺伝子発現解析法を利用し、PMBLとHLが共有する分子的特徴を確証した。Rosenwaldらは、PMBLの特徴となる遺伝子の34%はHLでも特徴的に発現していることを見いだした。PMBLでの発現量増大がすでに知られていた3個の遺伝子(MAL、FIG1、 LFA3)は、PMBL予測用遺伝子群とHL特徴的遺伝子群の両方に存在していた。
では、分子的特徴を構成する個々の遺伝子から、PMBLとHLで異常を示す情報伝達経路 について何か新しいことがわかるだろうか。Rosenwaldらによれば、PMBLと他のDLBCLの判別に最適で、HLでも発現量が高くなっている遺伝子は、9番染色体上 のJAK2遺伝子に近接した位置にある
DL2遺伝子だった。PDL2遺伝子座はPMBL腫瘍の約半分の症例で増幅されている。PDL2はT 細胞活性化を調節する因子の遺伝子である。PDL2因子が発現すると悪性B細胞が胸腺内でT細胞と共存するようになり、その部位にリンパ腫が発生するのではないかとRosenwaldらは述べている。両グループによると類似性はほかにも多数みられ、B細胞受容体情報伝達分子の発現量の低下ならびに(JAK2、STAT1を含む)インターロイキン‐13を介した情報伝達分子、腫瘍壊死因子ファミリーに属するタンパク質およびNF-κB転写因子が標的にする(TRAF1を含む)数種のタンパク質の発現量の増大などがある。さらにSavageらは、PMBLのほぼ全症例でNF-κB経路が活性化されていることを示し、この活性化機構によってPMBL細胞とHL細胞がアポトーシスに抵抗するのではないかと述べている。このような類似性にもかかわらず、この2つの型のリンパ腫は、PMBL細胞でのみ検出される数種の成熟B細胞遺伝子などの遺伝子の発現によって明確に区別がつく。
PMBLの遺伝子診断は、DLBCL患者の医療管理の指針づくりに役立ち、分子標的治療の開発につながるかもしれない。
doi:10.1038/nrc1197
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