優位に立つ
Nature Reviews Cancer
2003年10月1日
腫瘍形成の過程では、遺伝的変化と後成的変化は対等な勢力で、どちらか一方が選ばれるのだろうか。たぶんそうではないようだ。Cancer Cell誌に掲載されたManuel Peruchoらの最近の研究によれば、遺伝的機構がやはり優位に立っているのかもしれない。
変異誘発表現型が腫瘍形成に関与する場合があるとする仮説は、不適正塩基対の修復(MMR)タンパク質の欠損はマイクロサテライトの不安定性(MSI)と結腸直腸癌を引 き起こすという事実から支持されている。しかし、MMRタンパク質の欠損は、MLH1というMMR遺伝子の転写の後成的抑制によって起こる場合もある。この後成的機構による転写抑制は、CpG島のメチル化誘発表現型(CIMP)のために起こるのかもしれない。そこでPeruchoらは、CIMPがMSIや変異誘発表現型より優位に立つのかどうか、また、そのことが結腸直腸癌において重要な役割を果たすのかどうかを明らかにすることにした。
Peruchoらは、207症例の結腸直腸癌を対象にして、結腸直腸癌で過剰にメチル化を受けているとされる6個の遺伝子のプロモーターのメチル化特異的ポリメラーゼ連鎖反応による増幅から着手した。興味深いことに、腫瘍1個あたりのメチル化遺伝子座の数の分布様式は二極大値分布ではなく、ゆるやかな単一極大値型を形成した。CIMP表現型が腫瘍の進行過程の特定の段階で生じ、メチル化の有意な増加を引き起こす手段になるならば、二極大値分布になると予想される。しかし、CIMP表現型を検出するには、調べるメチル化遺伝子座の数が少なすぎる可能性も考えられたので、Peruchoらはメチル化感受性の増幅断片長多型を利用してメチル化含量の全体的解析を行った。この手法では調べる遺伝子座の数が 35個まで増え、メチル化遺伝子座の頻度はそれでも無作為事象に特徴的な標準分布を示すのに対し、マイクロサテライト変異の頻度は二極大値分布を示すことが確認された。
したがって、変異誘発表現型はメチル化誘発表現型によって引き起こされるのではないようだ。このことをさらに検討するため、Peruchoらは(最初に調べた6個のうち少なくとも2個のメチル化プロモーターをもつ)メチル化誘発表現型と(MSIが陽性の)変異誘発表現型の有無で分けて結腸直腸腫瘍の特徴を比較した。MSI陽性の腫瘍とMSI 陰性の腫瘍には遺伝子型と表現型の顕著な違いがいくつか見られたが、メチル化誘発表現型をもつ腫瘍ともたない腫瘍の有意な差異は2つしかなかった。すなわち、メチル化誘発表現型をもつ腫瘍は一般に結腸近位部に見いだされ、年齢の高い患者に生じた。しかし、この2つの特徴は、悪性形質転換より先に生じている。
したがって、変異誘発表現型は結腸直腸癌ではメチル化誘発表現型より優位に立つようだ。また、MLH1遺伝子のメチル化がMSIを誘発する場合もあるが、それでもメチル化誘発表現型の獲得が重要だと思われる。他の種類の腫瘍でもそうなのかどうか、これに関連してCIMPにはまだ解明されていない役割があるという考えが提案されている。
doi:10.1038/nrc1201
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