老化の防御
Nature Reviews Cancer
2003年9月1日
いわゆる「二日酔いの感覚」は、年をとるにつれてひどくなっていく。確かに老化にはいろいろ問題があるが、これらのなかには体が防げるものがある。Richard Van Ettenらは抗酸化物質ペルオキシレドキシン1(Prdx1)が重要な防御物であり、酸化 体の有害な影響から老化マウスを守ることを発見した。
Ettenらは、生存可能で繁殖力もあるが、野生型同腹仔マウスに比べ顕著に寿命の短 いPrdx1完全欠失マウスを作出した。早発性の死因は溶血性貧血と、Bリンパ腫、Tリンパ腫、組織球性悪性腫瘍と上皮癌、間葉細胞腫を含む癌の発生である。これらの疾病はヘテロ接合体では増加し、たいていの正常組織に見られるPrdx1が腫瘍では少ないかまったく見られない。そのためPrdx1は癌抑制物質として作用しているように見える。ヘテロ接合体を検査した結果、残っているPrdx1対立遺伝子の構造の再編成や欠失は見られず、Prdx1の発現喪失は、変異か後成的な機構で生じることが示された。しかし、Prdx1-/-マウスにおける腫瘍形 成の原因はどんな機構なのか。
Prdx1-/-マウス胚性繊維芽細胞(MEF)は試験管内では野生型MEFよりゆっくりと増殖し、酸化体に対する感受性ももっと高く、過酸化物誘導性の細胞内活性酸素種(ROS)濃度も高い。さらにPrdx1-/- MEFは8‐オキソグアニンの基礎濃度も過酸化物誘導濃度(すなわち変異をひき起こす酸化的DNA損傷)も野生型に比べて高かった。まとめると、これはPrdx1喪失が酸化体や細胞内ROSへの感受性を増し、酸化的DNA損傷が増して癌になりやすくなることを示す。Prdx1はナチュラルキラー(NK)細胞活性のエンハンサーとしても同定されている。NK細胞は腫瘍形成の防御に重要である。そこで、Prdx1-/-マウスから単離したNK細胞を調べたところ、マウスNK感受性Tリンパ腫細胞系列YAC-1に対する溶解活性の減少が見られた。赤血球はNK細胞の細胞傷害活性を刺激するが、Prdx1-/-赤血球は、野生型赤血球ほど野生型NK細胞の細胞傷害活性の増強効果はなかった。逆にいえば、野生型赤血球 はPrdx1-/-NK細胞の活性はほとんど刺激せず、最適なNK機能を得るにはPrdx1がNK細胞と非免疫細胞の両方に必要である。
したがって、Prdx1は老化マウスの癌抑制に直接関係する。この研究は、Prdx1-/-マウスを癌になりやすくする機構を同定し、抗酸化物質がどのような経路で腫瘍形成を防ぐかを理解する第一歩である。
doi:10.1038/nrc1174
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