成長のもとを断ち切る
Nature Reviews Cancer
2003年9月1日
瘍の進行は、血管新生なしには起こらない。新しくできた血管は成長中の腫瘍に必 要な酸素と栄養分を供給する。Nature Medicineの8月号でLevon Khachigianら は、この供給を正に文字通り絶つ方法を報告している。この方法では、DNAをもとに した酵素(DNAzyme)を使い、初期増殖応答因子1(Egr1)mRNAをたたき切る。 EGR1は、Khachigianらが内皮細胞の増殖と腫瘍の血管新生を制御するのに不可欠だと明らかにした転写因子である。
DNA酵素はヒトのEgr1mRNAを標的に設計されており、酵素は生体外検査で内皮細胞の転移を阻止し、また基底膜基質(マトリゲル)で培養した内皮細胞による毛細血管の形成を妨害した。また、マウス皮下にマトリゲルプラグを注入して起こす血管形成は、マウスのEgr1を標的とするDNA酵素(ED5)によって妨げられる。無作為なハイブリッド配列をもったDNA酵素を使った場合、これらの実験でなんの効果も見られない。
つまりED5は、血管新生を阻害する。しかしこの阻害作用は、腫瘍の成長に対してはどんな効果を示すのか。MCF-7乳癌細胞を注入したBALB/cヌードマウスの皮下にED5を 投与すると、無作為DNA酵素または媒体のみを注入したマウスと比較して、腫瘍が5分 の1に縮小するのが観察された。ED5はMCF-7増殖に対しての直接的な阻害効果はもっ ておらず、腫瘍の血管密度を小さくする。また、局所的な腫瘍内注入はMCF-7腫瘍の 成長を妨げる。重要なのは、傷の治癒において全身的な副作用なしに止血や再生が見られることだ。
では、Egr1遮断はどのようにして血管新生を妨げているのか。Khachigianらは血管新生の2つの強力な誘導因子、つまり繊維芽細胞増殖因子‐2(Fgf2)と血管内皮増殖因子(Vegf)に対するEgr1阻害の効果を調べている。ED5処理したマウスMCF-7腫瘍の内皮では、Egr1とFgf2の発現は弱いか存在しないかであったが、Vegf発現はED5処理をしても変化がなかった。DNA酵素は、マウスのB16悪性黒色腫の成長に対しては何の影響も与えない。B16は成長と転移に際し、Vegf経路に依存しておりFgf2には頼っていない。
つまりはEGR1は、内皮細胞の増殖と腫瘍の血管新生において重大な役割を担っており、これはVEGFではなくFGF2によって調節されているようだ。新しい抗癌剤として、EGR1を狙うDNA酵素などを研究することは非常に興味深いかもしれない。
doi:10.1038/nrc1179
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