腫瘍の犯行の原因
Nature Reviews Cancer
2002年6月1日
犯罪者は生まれつき悪いやつなのか、それとも犯罪行為が蔓延している場所に住むこ とによって感化されるのか。Yuan Zhuらは、遺伝性1型神経繊維腫症(NF1)という腫 瘍の「犯行原因」を解明した。環境が、神経繊維腫細胞という犯罪を多発させる傾向 を引き出すのである。
伝性癌素因症候群患者の場合、体内のあらゆる細胞で、ある癌抑制遺伝子が最初か らヘテロ接合の状態をとっている。そして、癌は、1個の細胞内でのヘテロ接合性の 消失の結果として生じると考えられる。ところで、この細胞の周辺のヘテロ接合性細 胞は、腫瘍形成に影響を及ぼすのだろうか。これを突き止めるため、Zhuらは Cre-Lox標的遺伝子組換え法を利用し、体内のあらゆる細胞のNf1癌抑制遺伝子がヘテ ロ接合性のマウスを作出した。このマウスでは、シュワン細胞で特異的にCre(相同 組換え酵素)を介した組換えが起こり、ごくわずかなNf1-/-細胞が生じるように なっている。得られたすべてのマウスで、叢(そう)状神経繊維腫の発生が見られ た。叢状神経繊維腫はNF1患者に特有の腫瘍型だが、散発的には起こらない。
ウスに生じた腫瘍の顕著な特徴の1つは、肥満細胞の広範な浸潤であった。肥満細 胞のNf1の状態も腫瘍発生に影響するのだろうか。Zhuらはこの問題を解くため、 Cre酵素の標的をもつシュワン細胞以外のすべての型の細胞でNf1について野生型にな ったマウスを作出した。これらのマウスのシュワン細胞は、Cre酵素を介した組換え が起こったかどうかにより、Nf1+/-とNf1-/-が混じったものになっている。 驚いたことに、これらのマウスは明白な腫瘍を発生しなかった。そして、生じた小さ な過形成には肥満細胞の浸潤は見られなかった。
のように、Nf1+/-細胞の近くある細胞(肥満細胞かもしれない)が、Nf1-/-シュワン細胞が腫瘍になるかどうかを決定する。遺伝性神経繊維腫症の現在の 治療法は、犯罪に対して厳しく対処するやり方だ。しかし、今回の研究は、犯罪の原 因に対して厳しく対処する治療法(たとえば、肥満細胞の浸潤やサイトカイン産生を 阻止する薬剤)のほうがずっと有望かもしれないことを示している。また、他の遺伝 性癌症候群も同じように環境の影響を受けやすいことがわかるかもしれない。
doi:10.1038/nrc829
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