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糖衣をかぶせたチップ

Nature Reviews Cancer

2002年6月1日

糖鎖は、癌などの疾患との関連が次第に明らかにされつつある。しかし、主としてこ れらの構造的に複雑な分子の一般的合成法や分析法がなかったため、糖鎖の機能に関 する研究は、従来から核酸やタンパク質の研究より立ち遅れてきた。最近、複合糖質 の合成法が進歩し、大きな影響が現れている。そして、今回、化学構造がわかってい る糖を並べたアレイが初めて報告され、機能研究用に多種多様な糖をずらりと並べた アレイをチップとしてつくるという喜ばしい可能性がかなり現実になりつつあるよう だ。

ンパク質と糖あるいは糖どうしの相互作用や酵素活性を解析する糖チップの開発に は、重要な課題がいくつかある。まず、すぐれた選択性と定量分析の両方を実現する ため、非特異的相互作用を防ぐ必要がある。また、基盤に固定した糖は、可溶性タン パク質や酵素に対して均一の活性をもつようにするため、規則的で均質な環境の中で 提示される必要がある。さらに、自然界におけるタンパク質と糖あるいは糖どうしの 相互作用の多くは多価性なので、糖リガンドの密度を調節する必要がある。最後に、 このチップの適用範囲を広げるため、蛍光画像解析や表面プラスモン共鳴(SPR)分 光学などの複数の一般的検出法と併用できるようにすべきである。

ousemanとMrksichは、Diels-Alder反応を利用して金を基盤にした単層に糖リガンド を連結した。この単層は、糖リガンドに連結可能な成分(1%)とタンパク質の非特異 的結合を阻止する成分(99%)を混合して調製した。Diels-Alder反応は迅速で選択的 に、そして定量的に起こるので、この反応を利用すると糖を一様な密度で均等に提示 させることができる。

者らは、糖リガンドを連結した単層の性質を調べるため、まずSPRという強力な技 術を利用して生体分子の結合を検査した。単一の糖リガンドを提示している単層は、 フィブリノーゲンというありふれた「粘着性」タンパク質の非特異的吸着に対して完 全に不活性だった。そのリガンドは、糖結合性タンパク質のコンカナバリンAという レクチンと特異的に結合することができた。次に著者らは、10種類の糖リガンドを提 示するアレイを調製し、(蛍光画像解析を用いて)そのアレイがリガンドと数種類の レクチンとの結合性相互作用の選択的同定に使えることを示した。別の実験で、その 相互作用の定量解析が可能なことも示した。最後に著者らは、アレイに結合させた天 然の基質に対する糖修飾酵素の活性の解析が可能なことも示した。

たがって、このようなアレイは、糖チップの開発の鍵となる必要条件を満たしてい る。また、最近報告された複合糖質の自動合成法と併用できることも重要である。こ の化学的方法で作成されたチップは、基礎研究から新薬発見や診断までの糖鎖生物学 において応用範囲が広いといえる。さらに、関係する表面化学は、ペプチドおよびタ ンパク質チップの調製にも役立つだろう。

doi:10.1038/fake847

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