Research Highlights

沈黙を破った遺伝子

Nature Reviews Cancer

2002年6月1日

癌細胞は、癌抑制遺伝子の欠失や変異だけでなく、後成的機構によって遺伝子発現を 止めることもある。しかし、特定の腫瘍で転写の抑制された沈黙遺伝子を正確に決め るのは難しかった。マイクロアレイを基礎にした新しい検査法は、過剰メチル化とヒ ストンデアセチラーゼ(HDAC)活性によって抑制される遺伝子を同定することがで き、結腸直腸癌細胞でこの機構によって転写が抑制される74個の遺伝子が明らかにな った。

成的機構による遺伝子転写の抑制(gene silencing)には、通常は遺伝子のプロモ ーター領域にあるCpG島というDNA配列のメチル化の増加と、染色体凝縮を制御する HDAC群の活性が関与する。しかし、これらの機構によって調節される部位は遺伝子の タンパク質指令領域の外にあることが多いので、近傍の遺伝子を探索してその発現様 式の変化を調べることは困難である。また、CpG島を含まない過剰メチル化部位もあ るので、過剰メチル化部位の同定さえも難問になることもある。そして、HDAC活性に よって調節される遺伝子の同定法は確立されていない。

iromu Suzukiらは、マイクロアレイを利用し、DNAメチル化を阻止する5‐アザ‐ 2'デオキシシチジン(DAC)やヒストンデアセチラーゼ(HDAC)活性を阻害するトリ コスタチンA(TSA)で処理した細胞の発現様式と未処理細胞の発現様式を比較するこ とによって、これらの障害を克服した。8種類の結腸直腸癌細胞系の1万個を超える遺 伝子を検査し、DACやTSA処理によって転写が上昇した74個の遺伝子を明らかにした。 これらの遺伝子のうち51個の遺伝子は抑制解除に両薬剤処理を必要としたが、23個の 遺伝子はTSA単独処理で発現が増加した。したがって、大部分の遺伝子は、転写の抑 制に過剰メチル化とHDAC活性の組み合わせが必要なようだ。

れらの遺伝子の多くは、すでに腫瘍発生に関与するとされていた遺伝子である。 SEZ6Lは肺癌と乳癌で変異を起こしている機能不明の遺伝子で、TIMP2は細胞の浸潤に 必要な基質メタロプロテイナーゼ遺伝子族の阻害タンパク質である。予期しなかった 発見の1つは、以前に結腸直腸癌との関連が知られていなかったSFRP遺伝子族の4個の 遺伝子の過剰メチル化であった。この4個の遺伝子の産物はWNT/FZD1情報伝達経路を 阻害するので、SFRP遺伝子は新種の結腸直腸癌抑制遺伝子かもしれない。SFRP遺伝子 族は、癌の有無の目印になる新しい過剰メチル化腫瘍マーカーを提供し、結腸癌の検 出に役立つかもしれない。

来、この検査手法によって他の種類の腫瘍の間で後成的修飾の比較ができるように なり、新しい癌抑制遺伝子の同定も促進されることになろう。

doi:10.1038/nrc825

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