MYCの多面性
Nature Reviews Cancer
2002年7月1日
発癌遺伝子c-MYCは、c-MYCで誘導された腫瘍内で拮抗する過程、すなわち細 胞の生存と死の両方を促進することが知られている。しかし今回、2つのグループ が、c-MYCは活性酸素分子種(ROS)の蓄積も誘導できるが、非常に異なる結果を導く とMolecular Cell誌に報告している。
mid Vafaらは、c-MYCの発現が染色体異常を誘導するという知見に興味をも った。これは、細胞を早期にS期に入らせるというc-MYCの能力の直接的あるいは間接 的影響であり、Vafaらはこれらの可能性を区別しようともくろんだ。Vafaらは損傷を 受けたDNAを可視化するために、in situ TUNEL法を開発し、正常なヒト繊維 芽細胞においてc-MYC活性化(タモキシフェン誘導系を用いて達成)が実際にDNA損傷 を引き起こすことを確認した。細胞周期解析では、たった1%の細胞がc-MYC誘導後 8〜9時間でS期に入ったが、多くの細胞は4時間までは平均23のTUNEL fociをもち、 8〜9時間後には細胞あたり約70 TUNEL fociに増加することが示された。
のようにc-MYC発現は、細胞周期とは独立してDNA損傷の原因となりうる。この機構 は、c-MYCのアポトーシスプログラムの産物なのだろうか。この可能性はないと考え られる。なぜなら、アポトーシスの標識(たとえばシトクロムcの放出)が見 られなかったし、カスパーゼ阻害剤の追加は、TUNEL fociの数に影響しなかったから である。
のかわりc-MYCは、その活性化の3〜4時間後に代謝中間体ROSの蓄積を誘導するらし く、これが直接あるいはトポイソメラーゼの活性化を通じてDNAを損傷しうる。細胞 に抗酸化剤処理を施すとROSの蓄積が防がれ、したがってDNA損傷も起こらない。 c-MYCを発現している細胞はまた、老化に似た状態で休止しており活性が減少 するが、この状態も抗酸化剤で軽減する。
外にも、c-MYCはDNA損傷を導き増殖の停止を誘導するが、部分的にp53誘導性の細 胞休止にうち勝つように見える。γ線照射をした細胞は通常、G1期に停止する(24時 間後にS期に進むのはわずか1.2%)が、c-MYC活性化があると同じ時間でS期に進む細 胞は11.5%になる。
たがって、c-MYCはROSの蓄積(これがDNAを損傷する)を誘導し、一方、休止応答 を損なうことが癌細胞の増殖に有利に働くゲノムの不安定性を増加させうる。 ところが、Hirokazu Tanakaらは異なる結果を得ている。Tanakaらの示すところで は、NIH-3T3とSaos-2細胞株で血清除去後のc-MYC発現がROSを誘導したが、 DNA損傷と増殖休止を導かず、代わりにアポトーシスを誘導した。ROSの蓄積の背景に あるしくみは、c-MYCが転写因子NF-κBを阻害するE2F1を誘導し、それによって抗酸 化剤MnSODの転写活性化を阻害すると、結果としてROSが増加するというものだ。しか し、ROSの蓄積がもたらす2つの矛盾する影響はどのように説明したらいいのだろう。 最も明らかな理由は、用いられた細胞の種類が違う点に関係する。たとえばSaos-2細 胞株はp53をもたず、応答が異なる可能性がある。また、Vafaらはc-MYCを発 現しているラット細胞がアポトーシスを起こすのに対し、正常ヒト繊維芽細胞は起こ さないことを示している。
残されている解決すべき重要な問題は、c-MYCの誘導するROS蓄積が生体内のヒト細 胞で起こり癌化を促進するかどうかである。
doi:10.1038/nrc851
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