細胞分裂で変異の蓄積か
Nature Reviews Cancer
2002年9月1日
ダウン症候群(DS)の子供たちは、白血病、特に急性巨核芽球性白血病(AMKL)を発 症する危険度が高い。しかし、DSと癌の関連性はよくわかっていない。Nature Genetics 9月号でWechslerらは、AMKLを発症したDS患者がすべて、正常な造血に 必要な転写因子を指令する遺伝子に体細胞変異を1つもつことを報告した。
echslerらはGATA1とよばれる遺伝子の研究から着手した。GATA1はジンクフィンガー をもつ転写因子で、赤血球と巨核芽球の増殖と成熟に必要であることが知られている。 GATA1のジンクフィンガードメインの遺伝性変異は、先天性赤血球不全貧血と血小板 減少症をひき起こすことが以前に報告されている。また、GATA1を欠失した巨核芽球 は血小板に分化せず、過剰増殖することが観察されている。そこで、Wechslerらはこ の遺伝子の変異が骨髄性白血病にも関連しているかどうか確かめることに期待を寄せ た。
echslerらは白血病患者の芽球を解析し、DS-AMKLの6人それぞれのGATA1から、終止 コドンが挿入され未成熟産物を生じる変異を検出した。対照的に、健常人や、DSでは ない型の異なる骨髄性白血病の患者、DSではあるが型の異なる白血病の患者のDNAか らはGATA1の変異が検出されなかった。下流の開始部位から翻訳されたもっと短い産 物を代わりに産生しているとはいえ、DS-AMKL患者の巨核芽球は全長のGATA1を発現し ていない。
れでは、DS患者にはなぜこの特殊な変異が生じるのだろうか。DSはトリソミー21 (21番染色体が3コピーある)と結びついている。このことは、ほかの染色体が体細 胞変異を獲得するもとになる。Wechslerらは21番染色体の遺伝子(群)の過剰発現が 造血幹細胞の異常増殖を刺激する可能性を提案している。増殖した分裂細胞の集団は 次に、ほかの染色体上の遺伝子群(たとえばX染色体上のGATA1など)に変異を許容す るようになり、AMKLのような癌が発生する。部分的トリソミー21のマウスとGATA1に 変異をもつマウスを交配させた解析から、DSの白血病発症機構についてさらなる情報 が得られるだろう。
doi:10.1038/nrc897
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