Research Highlights

しっかりつかまれ!

Nature Reviews Cancer

2002年9月1日

Helicobacter pyloriは世界中で半数以上の人々の胃粘膜に感染し、これらの 細菌の感染は胃癌の初期危険因子である。H. pyloriとその感染により引き起 こされる宿主の炎症応答の両者が腫瘍形成に寄与するとされているが、この関係はよ く理解されていない。Thomas Borenらによると、この抗細菌性炎症応答は胃細胞での シアル酸含有複合糖質の合成を促進するが、皮肉にもこの糖質を細菌が表面上皮への 付着に利用するという。

orenのグループはScience誌で、炎症を起こした胃粘膜の上皮細胞はその表 面にシアル酸含有スフィンゴ糖脂質(GSL)をもつと報告している。また彼らはシア リル‐ジ‐ルイス×GSL(sLex/a)という繰返しをもつ分子をヒト腺癌細胞か ら単離した。BorenらはH. pyloriがシアル酸結合アドヘシン(SabA)とよば れるアドヘシンタンパク質を発現することを示した。SabAはsLex/a抗原に結 合し、H. pyloriはこのおかげで胃細胞表面に付着することができる。興味深 いことに、sLex/aはすでに腫瘍抗原と胃形成異常のマーカーとして同定され ていた。BorenのグループはH. pyloriの感染がヒトとサルの胃上皮細胞表面 にsLex/a抗原の形成を引き起こすことを示した。

abAは、H. pyloriが利用する唯一の結合分子ではない。Borenらはすでに、 別の細菌アドヘシンタンパク質BabAが胃細胞表面でのルイスB(Leb)分子へ の付着を促進することを示した。しかし、細菌はbabA遺伝子を削除したのち もこれらの細胞に付着できた。つまり、sLex-SabAの接触は腫瘍形成の重要成 分であるようだ。

はこれらのアドヘシンタンパク質の利点はなんであろうか。これらはH. pyloriの胃上皮細胞への結合を可能にし、胃内腔に細菌がこぼれ落ちないように 保護する。これらの細菌が胃粘膜細胞にしっかりとくっつければ、感染により損傷を 受けた胃上皮から出る滋養分の多い滲出液へ確実に接触するのにも役立つ。H. pyloriが胃粘膜に残留すると、宿主の炎症応答を持続させることになる。

の研究は、H. pyloriが宿主の炎症応答を有効に利用する機構に新たな洞察 をもたらすだけでなく、さらに効果的なH. pylori感染治療の可能性をも開く ものである。これらの細菌は抗生物質への耐性を高めてきており、BabAおよびSabAタ ンパク質は胃癌ワクチンの成分として役立ちそうだ。

doi:10.1038/nrc890

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