Research Highlights

ハリネズミが関与するファジー理論

Nature Reviews Cancer

2002年10月1日

髄芽細胞腫は、幼児期に発生する小脳起源の腫瘍で、ヘッジホッグ(Hedgehog、「ハ リネズミ」の意味で、Hhと略す)情報伝達経路の不適切な活性化と関連している場合 がある。Philip Beachyらが今回、髄芽細胞腫の症状発現前のモデルに樹立された腫 瘍について、Hh情報伝達経路の阻害剤が腫瘍を退縮させると報告しており、この侵襲 癌の新しい治療法が見えてきた。

hには、体細胞の幹細胞の維持や器官の大きさの特定、あるいは発生過程にパターン 形成が起こるのに不可欠な各種分泌型タンパク質のファミリー(同族体)が含まれる。 HhがPatched(Ptchと略す)という膜貫通型受容体に結合すると、Smoothened(Smoと 略す)という別の膜貫通型タンパク質が活性化される。その結果、Cubitus interruptus/Gli(CI/GLI)ファミリーの転写因子による標的遺伝子群の活性化がも たらされる。

芽細胞腫ではこの情報伝達経路において、リガンドに依存しない活性化が起こるこ とが明らかにされた。この活性化は、SmoがPtchによる調節に反応しなくなる変異、 あるいはPtchの変異による不活性化によって引き起こされた。髄芽細胞腫のマウスモ デルでは、Ptch活性がないと発癌の開始が促進される可能性があり、続いてp53機能 が失われると、腫瘍細胞の増殖が促進されると思われる。

こでBeachyらは、シクロパミン(cyclopamine; Smoの段階でHh情報伝達経路を阻害 する植物由来の因子)が髄芽細胞腫の増殖を遅らせる能力を調べることにした。 Beachyらは、髄芽細胞腫由来の細胞系をシクロパミンで処理した場合、培養細胞の増 殖と誘導される分化が阻害されることを見いだした。さらに、Ptch対立遺伝 子の1つを破壊し、Trp53(マウスのp53を指令する遺伝子)の変異を導入して 作出したマウス髄芽細胞腫モデルにシクロパミンを皮下注射すると、樹立された腫瘍 の増殖が遅くなった。

トの髄芽細胞腫から切除したばかりの新鮮な細胞では、Hh情報伝達経路の活性が上 昇していることがわかったが、この細胞もシクロパミンの誘導体に感受性を示した。 ヒトの髄芽細胞腫細胞をこの誘導体で処理すると、細胞の生存能力が50%近く低下し、 Hh経路の情報伝達が抑制的に制御された。ところがシクロパミンは、多形性神経膠芽 腫、脳室上衣腫および繊維芽細胞には影響を与えず、一般的な細胞毒素ではないこと がわかる。また、齧歯(げっし)類やほかの哺乳類の動物に対するシクロパミンの毒 性効果も観察されなかった。

は、Hh経路の活性化が特に髄芽細胞腫の特徴になるのはなぜなのか。Beachyらは、 Hhが既知の幹細胞因子であり、発生過程の小脳の分裂促進因子でもあるので、癌性の 幹細胞がこの経路によって自己再生を続けていくのではないかと述べている。マウス とヒトの髄芽細胞腫では神経幹細胞マーカーのネスチンが多量に発現していることか ら、この推測が支持される。Hh拮抗薬をヒトに適用できれば、この癌の有用な治療法 が開発されるかもしれない。

doi:10.1038/nrc919

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