自己破壊
Nature Reviews Cancer
2002年10月1日
免疫細胞は腫瘍に侵入しても、寛容機構が「自己」抗原を発現する細胞の破壊を妨げ るため、総攻撃を開始できないことがよくある。患者を癌抗原で免疫感作しても、腫 瘍に特異性を示す循環リンパ球数がわずかに増すことが示されただけで、腫瘍の退行 促進は見られなかった。Science9月19日号で、Steven Rosenbergらは免疫療法の 新しい手法について述べている。その方法によると、正常なリンパ球の90%までが活 性化した腫瘍特異的リンパ球に変わり、結果的に転移性黒色腫が退行する。
治性の転移性黒色腫患者13人に自己免疫系を消耗するような高レベルの化学療法を 行い、つづいて腫瘍特異的T細胞と、高用量のサイトカインであるインターロイキン (IL)‐2を投与した。T細胞は、最初に患者自身の腫瘍試料から単離したもので、生 体外で増殖させ、黒色腫細胞に対する応答性が証明されている。これらの患者のう ち6人は転移性黒色腫が著しく退行し、別の4人には1つ以上の転移が縮小する混合応 答が見られた。この応答は治療後24か月まで継続した。
かし、この免疫応答を活性化した腫瘍抗原は何だったのだろう。患者の末梢血液細 胞を解析したところ、MART1抗原を特異的に認識するT細胞を含む割合が高いことが明 らかになった。MART1抗原は変異していない分化抗原で、黒色腫と正常なメラニン細 胞の両方で発現している。非変異自己抗原に応答する個々のT細胞クローンが高い割 合で長期にわたり持続する状況は、ヒトではこれまで観察されていなかった。
osenbergらは、以前の免疫療法の手順では失敗した場合でもこの方法が成功したの は、患者に投与した増殖培養液にヘルパーT細胞と細胞溶解性T細胞両方が含まれてい たためであると示唆している。この研究で用いられた骨髄非破壊性前処置法でも、リ ンパ球増殖を抑制する調節細胞あるいは他の機構が除去されているのかもしれない。
瘍が退行した患者のうち5人には自己免疫性メラニン細胞破壊も起こり、尋常性白 斑が現れた。しかしこの研究によって、「自己抗原」がヒト癌に対する免疫療法の標 的に利用でき、そしてもし自己免疫性が調節できれば、ほかの癌やウイルス性疾患の 治療に同様の方法が有用かもしれないことが明らかにされた。
doi:10.1038/nrc922
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