謎に満ちた分子
Nature Reviews Cancer
2002年10月1日
生殖系列のLKB1癌抑制遺伝子の変異は、胃腸ポリープ症や癌になりやすい特 徴をもつポイツ‐ジェガーズ症候群(PJS)という疾患と関連がある。PJSの病因およ び発病過程におけるLKB1の役割は、よくわかっていない。PJSの新しいマウスモデル の研究から、この疾患がいかに複雑なものであるかがようやく明らかにされ始めた。
JSは、珍しい遺伝性の癌症候群である。生殖系列のLKB1の変異が癌になりや すい素因と結びついているのだが、散発性腫瘍のLKB1遺伝子が変異を起こし ていたり、後成的機構によって転写が抑制されていたりはめったにない。PJS患者に 発生する腸ポリープは悪性度が高いわけではなく、この腸ポリープがPJS患者にやが て発生する癌腫の前駆状態なのかどうかは明らかでない。これらの一見矛盾するPJS の特徴を解明するため、BardeesyらはCre‐lox標的遺伝子組換え系を利用し、条件 的Lkb1対立遺伝子をもつマウスを作出した。Lkb1遺伝子欠損マウスは 胚発生の過程で死亡したが、Lkb1+/-マウスではヒトのPJS患者に 見られるのと同一の腸ポリープが発生した。
は、これらのマウスでは細胞レベルで何が起こっているのか。マウスの胚繊維芽細 胞ではLkb1が高度に発現されている。継代培養を9回ほど繰り返すと、正常な 繊維芽細胞では細胞増殖が停止する。ところが、Lkb1遺伝子欠損細胞では、 細胞集団の倍加が40回繰り返された後でさえも増殖が続き、継代培養に誘導される老 化への抵抗性が示唆された。継代培養誘導性老化は一般にINK4Aまたはp53の活性が原 因で起こるが、これらがかかわる情報伝達経路はLkb1遺伝子欠損繊維芽細胞 では損なわれていなかった。
kb1遺伝子欠損繊維芽細胞は、活性化されたHrasによる悪性形質転換にも抵 抗性を示した。この表現型は、PJS患者のポリープに低頻度のRas変異が見い だされる事実と矛盾しない。Bardeesyらは、Lkb1遺伝子欠損細胞で転写され る遺伝子の発現様式を解析し、細胞外基質の分泌性情報伝達分子と調節因子の発現量 が変化することを観察した。したがって、Lkb1遺伝子欠損細胞は、腫瘍の増 殖を許容する環境をつくるのを助けているのかもしれない。
面上は、Lkb1遺伝子欠損細胞で観察されたRasによる悪性形質転換への抵抗 性は、LKB1の欠損と関連したポリープ症や癌
doi:10.1038/fake857
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