分裂か死か
Nature Reviews Cancer
2002年11月1日
細胞増殖と細胞死は反対の機能のように見えるが、E1AやMYCのような癌遺伝子はどち らも発動できる。アポトーシスは安全装置と考えられ、増殖を促す発癌信号が過度に 認識され、腫瘍形成をひき起こしそうな場合に誘導される。癌遺伝子が細胞死を誘導 するしくみははっきりとは確かめられていない。Zaher Nahle、Scott LoweらはE1Aを 用いてこの現象を調べ、複製を促進し増殖を促す転写因子E2Fが、これらの過程の調 整に重要な役割を果すことを見いだした。
ahleらはまず、マウス胚繊維芽細胞(MEF)と正常なヒト二倍体繊維芽細胞(IMR90 細胞)においてE1Aを過剰発現させ、細胞死のエフェクターであるカスパーゼ のタンパク質量に対する影響の有無を調べた。イニシエーター、エフェクターどちら のカスパーゼも5〜15倍に発現が増大していることがわかった。ARFあるいはp53のど ちらかを欠失した細胞でも同様の増加が見られた。したがって、E1Aはp53に依存しな い経路でカスパーゼを増強しているに違いない。
1Aの重要な標的の1つが網膜芽細胞腫(RB)である。RBを不活性化できないE1A変異 体は、カスパーゼの発現を増大させることができない。同様に、 RB-/-MEFは野生型細胞よりもカスパーゼの発現レベルが高かった。 腫瘍由来の変異体(E2Fに結合できない)ではなく野生型のRBをRB欠失細胞へ 導入すると、このカスパーゼ発現は抑制され、このアポトーシス経路へのE2Fタンパ ク質ファミリーの関与がうかがわれる。実際、このカスパーゼ発現の誘導にはE2F1の 発現で十分である。
は、カスパーゼはE2F1の転写の標的なのか、あるいは誘導は間接的なのだろうか。 ノーザンブロットにより、IMR90細胞でE1AとE2F1のどちらかを発現させるとカスパー ゼのmRNAが5〜15倍(タンパク質量と同じ)に増加することが明らかになった。カス パーゼmRNA量は細胞がS期に入るときにも増加する。このことはE2F1活性と、サイク リンA(E2F1の標的として知られる)のmRNAレベルに合致する。カスパーゼプロモー ターの解析により、数種のカスパーゼがE2F1結合部位を含むことがわかり、E2Fが転 写を活性化できることがさらに裏づけられた。また、クロマチン免疫沈降実験もこれ を立証した。カスパーゼ‐7プロモーター配列をもつE1A発現細胞でE2F1の免疫沈降が 起こったのである。カスパーゼ‐7プロモーターはまた、E2F1発現下でルシフェラー ゼレポーター遺伝子を転写させることができ、その発現はほとんど18倍に増大した。
かし、カスパーゼ誘導の生理的な役割は何だろうか。アポトーシスの誘導では十分 でなく、代わりに、血清除去やアドリアマイシン処理のように、細胞をアポトーシス 刺激に感作しているように見える。E2F1はアポトーシス経路の後半に起こるシトクロ ムc放出を、p53依存性経路を介して活性化することも知られている。アポトー シス誘導におけるp53要求性は、少なくとも部分的には、E2Fを発現してい るTP53-/-BAX-/-細胞へのBAX(シトクロ ムc放出を促進するプロアポトーシスタンパク質)の導入かあるい はTP53-/-RB-/-細胞へのシトクロムc の直接微量注入により回復できた。これらの条件下では、E2F1によるカスパーゼの誘 導はアポトーシスを促進し、アポトーシス誘導におけるp53依存性、非依存性経路の 協同を強化する。
たがって、E1A癌遺伝子は同じ装置、すなわちE2Fを使って細胞分裂と細胞死の両過 程の開始を調整している。ほかの癌遺伝子が同様に働いているかどうかはまだ解決さ れていないままである。 .
doi:10.1038/nrc953
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