障壁を乗り越える
Nature Reviews Cancer
2002年12月1日
脳腫瘍の治療が難しい理由の1つは、血液脳関門を通して抗癌剤を送達するのが困難 なためである。実際、脳以外の部分で細胞分裂阻害薬(パクリタキセルなど)に応答 する腫瘍にとって、脳は転移すれば聖域となる。Journal of Clinical Investigation 11月号でFellnerらは、この障壁を克服し、パクリタキセルを脳 に入り込ませて脳腫瘍を縮小する方法を報告している。
クリタキセルはさまざまな腫瘍の治療に用いられる。しかし、多剤耐性タンパク質 であるP糖タンパク質(P-GP)の基質であるため必ずしもいつも効果があるとは限ら ない。P-GPは細胞外へ薬物をくみ出す輸送体である。Fellnerらは脳内でP-GPが発現 されているかどうかを調べた。P-GPは脳内で、中枢神経系(CNS)腫瘍からパクリタ キセルなどの薬物を運び出している可能性がある。P-GPは、健全なラットおよびヒト 脳において、CNSへの薬物の透過を制限できる場所である内皮管腔面の毛細血管で高 レベルで発現していることがわかった。ヒトグリア芽細胞腫をマウス脳に移植したと ころ、腫瘍内部で発生した血管もまたP-GPを高レベルで発現した。
前の研究から、P-GPの機能を低下させた動物では脳内にP-GPの基質が蓄積すること が明らかにされている。そこでFellnerらは、この輸送体を阻害するとCNSへ入り込む パクリタキセルが増加するかどうかを調べた。P-GP阻害剤であるバルスポダール (valspodar)を静脈内投与し、マウス脳の蛍光標識化パクリタキセル量が増加する ことを示した。さらに、パクリタキセルあるいはバルスポダール単独で治療すると腫 瘍の大きさには影響がなかったのに対し、バルスポダールとパクリタキセルを同時投 与するとヒトグリア芽細胞腫の増殖が90%減少した。
ウスをバルスポダールのみで46日間治療しても、全身毒性あるいはCNS毒性は何も 観察されなかった。このことはP-GP基質である抗癌剤の治療効果を高めるのに有用な 方法である可能性を示している。大腸癌および腎臓癌細胞でもP-GPの発現が明らかに なった。したがってこの組合せ治療法は、化学療法に対するこれらの腫瘍の応答性を 高めるのにも使えるかもしれない。
doi:10.1038/nrc961
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