終わりのない細胞周期
Nature Reviews Cancer
2003年1月1日
幹細胞と癌細胞は、可塑性、自己再生(self-renewal)など特定の性質を共有することから、共通の細胞機構をもつ可能性があると考えられる。TsaiとMcKayが今回Genes & Development誌に、幹細胞と癌細胞において核小体タンパク質が細胞周期の進行を調節する機構を報告している。
saiとMcKayは、幹細胞の増殖状態の基盤にある機構を調べるため、組織培養で分散させた中枢神経系(CNS)幹細胞の正確な分化決定反応速度を利用した。TsaiとMcKayは差し引きライブラリを作製し、このライブラリからヌクレオステミン(nucleostemin)という新しい核小体タンパク質を同定した。ヌクレオステミンは皮質の幹細胞に非常に豊富に含まれていたが、血清由来の分化した細胞には存在しなかった。ヌクレオステミンは胚幹細胞および数種のヒト癌細胞系にも存在していた。
saiとMcKayは、CNSの発生の過程で、ネスチンの発現量が最大値に達する前にヌクレオステミンが発現されることを示した。ネスチンは、神経上皮前駆細胞に特徴的な中間径フィラメントタンパク質である。また、ヌクレオステミンの発現は、PCNA(proliferating cell nuclear antigen、増殖細胞核抗原)という増殖マーカーと核小体のB23タンパク質の発現量がまだ高い時点で抑制されることを示した。この結果は、ヌクレオステミン発現が消失した後も細胞増殖が続くことと、ニューロンと神経膠細胞の分化が起こる前にヌクレオステミンの発現が抑制されることを意味している。したがって、ヌクレオステミン発現は即時に起こる増殖状態を反映しているのではなく、初期の多能性状態に特有のものということになる。
クレオステミンが果たす機能の役割を理解するため、TsaiとMcKayは、阻害作用をもつ低分子RNA(small inhibitory RNA、siRNAと略す)を利用してヌクレオステミン発現を減少させるノックダウン実験を行った。対照とした培養細胞に比較し、siRNA導入によってヌクレオステミン発現を減少させた皮質幹細胞とU2OS癌細胞系では非分裂細胞の比率が増加していた。このことから、ヌクレオステミンが増殖能力の維持に必要なことがわかる。興味をひくことに、ヌクレオステミンを過剰に発現させた場合も、細胞は細胞周期から抜け出し、ヌクレオステミンの機能を消失させたときと類似の表現型を示した。
saiとMcKayは次に、ヌクレオステミン機能の機構を分子レベルでさらに解析することにした。欠失実験により、ヌクレオステミンのアミノ末端側の塩基性領域がヌクレオステミンの核小体への局在化に重要なことと、ヌクレオステミンがもつ2つのGTP結合モチーフが核小体の完全性を調節していることが明らかになった。
TP結合モチーフをもたない変異タンパク質が過剰に発現されるとDNA複製が阻止されたことから、GTP結合の調節異常がS期後期の細胞周期の進行を妨げることがわかった。GTP結合モチーフをもたない変異タンパク質の過剰発現は、野生型ヌクレオステミンが発現している場合に比較して、細胞死の増加も引き起こした。また、ヌクレオステミンのアミノ末端側の塩基性ドメインを欠失させると、過剰発現によって引き起こされる細胞死を一部が免れた。さらに、 GTP結合ドメイン欠失変異タンパク質をp53遺伝子欠損細胞で発現させた場合は、細胞死の際立った増加は見いだされなかった。
は、p53はヌクレオステミンとどのように関連しているのだろうか。TsaiとMcKayは、グルタチオン‐S‐ トランスフェラーゼ(GST)プルダウン法(GSTタンパク質との融合タンパク質を作製し、グルタチオンカラムで一気に結合画分として精製する方法)と免疫沈降物の共沈法により、ヌクレオステミンがp53と結合できることを示した。また、p53との相互作用に関与する領域はヌクレオステミンのアミノ末端側塩基性ドメインに位置づけられ、これによって遺伝子機能を回復させる表現型が説明されることを示した。
saiとMcKayは、ヌクレオステミンにGTPが結合していない状態のときにはヌクレオステミンはほかの核小体タンパク質と複合体を形成し、GTPが結合するとその複合体が解離するのではないかという仮説を立てている。ヌクレオステミンとp53の相互作用は、たぶん核質内で起こると思われ、幹細胞ならびに癌細胞に特異的な細胞周期の進行のGTP調節性制御機構を示すものである。
doi:10.1038/nrc975
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