まれな単一性
Nature Reviews Cancer
2003年1月1日
上皮癌では、悪性転換をひき起こす単一の遺伝的損傷が見いだされることはめったにない。上皮癌は遺伝的に複雑な病だからだ。しかしTognonらは今回、優性に働く癌遺伝子を形成し、分泌乳癌(SBC)というまれな種類の乳癌をひき起こす転座について報告している。
泌癌は乳癌全体の1%未満で、3歳前後の幼い患者に生じ、通常は治癒するが、乳房切除や化学療法が必要なことも多い。一般的に、特異的な種類の癌には特異的な融合遺伝子が関連するとみなされている。しかしTognonらは、以前に6歳のSBC患者1人に転座を認め、小児間葉系腫瘍で同定したこの核型異常が唯一の例にすぎなかったのにもかかわらず他の症例を調査することに決めた。
座は12番染色体のETV6転写因子と、15番染色体のニューロトロフィン‐3受容体のキナーゼドメイン(NTRK3)の間で起こり、その結果、野生型NTRK3が構成的に活性化する。NTRK3は、有糸分裂誘発と癌の存続にかかわるRAS-MAPキナーゼ経路とホスファチジルイノシトール3‐キナーゼ経路を活性化する。
BCのさらなる患者12人のうち11人の腫瘍標本からETV6-NTRK3融合転写物が検出された。これらはすべて配列の切断点が同じだった。二色蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)で解析可能なSBC標本は、すべて融合遺伝子に陽性であった。それに比べ、典型的な浸潤性乳管癌(SBCはまれな種類)の50症例中49例では転写物が見られなかった。
たがって、これらの発見は、ETV6-NTRK3遺伝子融合がSBCにおいて無作為の再編成ではないことを示している。しかし、転座産物(EN)は悪性転換をひき起こすのだろうか。Tagnonらは2種類の不死化非形質転換マウス上皮培養細胞に、ETV6-NTRK3をレトロウイルスベクターにつないだ構築物を導入した。2種類の培養細胞のうち、Scg6細胞は間葉細胞の特徴をもち、Eph4細胞は安定な上皮表現型をもつ。どちらの細胞も構築物を発現し、悪性転換した表現型を示した。一方、ベクターのみを導入した細胞は何も示さなかった。さらに、これらの細胞をヌードマウスに注入すると、EN発現細胞は腫瘍を生成したのに、ベクターのみ導入した細胞は生成しなかった。元の表現型が保持されていることは組織病理学的に証明され、以前は間葉細胞の悪性度にのみ関連づけられていたEN産物が、上皮分化能を阻害しないことが明らかになった。
ognonらはETV6-NTRK3がSBCにおいて優性に働く癌遺伝子であることを立証した。そのうえ、以前は間葉系腫瘍で見いだされていたEN産物が上皮悪性腫瘍でも見いだされたことから、この研究は融合遺伝子が三胚葉の1つにのみ結びつくという学説に挑むものである。
doi:10.1038/nrc980
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