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どちらが先?

Nature Reviews Cancer

2003年1月1日

大腸癌は遺伝的に決められており、決まった一連の段階を踏んで進行することが知られる。しかし、細胞をこの腫瘍形成経路にいたらしめる最初のできごとは何だろうか。APC癌抑制遺伝子の変異が最初に起こることは確かである。染色体の不安定性(CIN)もまた腫瘍形成の推進力であると考えられているが、CINがおそらく第二のAPC対立遺伝子のヘテロ接合性喪失をひき起こすとしても、腫瘍形成の初期に起こるかどうかは現時点では知られていない。Martin Nowakらはこの問題を数学的確率モデルを用いて調べる方法を考案し、Proceedings of the National Academy of Scienceに報告した。まず、大腸陰窩(いんか)のあらゆる細胞が含まれるよう、APC不活性化とCINに関する6つの状態を検討することから始めた。CINの有無によらず、細胞のもちうる機能的APC対立遺伝子は0、1、2個のいずれかである。次に、1つの細胞がある状態から次の状態へ進行する手順と速度を、変異率、正常細胞とCIN細胞のヘテロ接合性喪失率、APC-/-細胞とCIN細胞の増殖率、優性CIN遺伝子数などのパラメーターを検討して決定した。系がX2状態(CINなしにAPCが不活性化した場合)またはY2状態(CINが起こりAPCが不活性化した場合)に先に達したとき、つまりCINが第二のAPC対立遺伝子を不活性化するかしないかにかかわらない確率を計算した。第二の筋書きが起こるためには、CIN遺伝子数がある閾値を超えなければならない。この数はCINの選択コスト、陰窩あたりの有効幹細胞数など、数種の要因に依存する。実際のパラメーター値の範囲の広さに比べ、CIN遺伝子の閾値は1〜10 と低いしたがってある条件下では、ヒトゲノムにおいて優性であるCIN遺伝子数がある数を超えると、大腸癌の癌抑制遺伝子の1つめがCINによって不活性化可能となるのだろう。この仮説の立証というもっと時間を要する過程は、まだ着手されていない。

doi:10.1038/fake861

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