大損失
Nature Reviews Cancer
2003年2月1日
網膜芽細胞腫(Rb)遺伝子がヘテロ接合性のマウスは、2番目の対立遺伝子を 失うと下垂体腫瘍や甲状腺腫瘍を発生する。Rbヘテロ接合性マウスモデルを 用いたTrp53遺伝子の不活性化の研究から、この2つの癌抑制遺伝子の欠除が 何らかの協調的役割を果たして腫瘍が形成されることが証明されているが、下垂体腫 瘍形成に関しては明らかにされていない。Kenneth Tsaiらが今回、Proceedings of the National Academy of Sciences誌の12月24日号で報告したところによると、驚いたことに、Arfという癌抑制タンパク質が失われると、Rbヘテロ接合性マウスでTrp53遺伝子が欠失した場合よりも下垂体腫瘍形成が促進されたの である。Arfタンパク質は、Mdm2タンパク質を阻害することによりp53タンパク質を活性化する。
saiらは、Rb+/-Arf-/-マウスではArf遺伝子の欠失が下垂体腫瘍形成を促進し、対照とし たRb+/-マウスに比較して生存率がかなり減少することを見いだした。Rb+/-Arf-/-マウス はRb+/-Trp53-/-マウスに特有の新たな病変を生じなかったので、このモデルにおけるArf遺伝子の欠失は
rp53遺伝子の欠失と同等ではないと考えられた。
b+/-Arf-/-マウス由来の腫瘍細胞は、Trp53遺伝子完全欠失対照マウス由来の腫瘍細胞よりも増殖速度が速かったが、アポトーシスを起こす細胞の比率に違いはまったく見られなかった。
後30日齢と60日齢のマウスを調べたところ、Arf遺伝子完全欠失マウスは早い時期に不定型の病変を生じ、その病変の数がしだいに増加し、大きくなり、さらに侵襲的になることがわかった。これらの結果から、Arf遺伝子の欠失は、Trp53遺伝子の欠失とは異なる影響をRbヘテロ接合性表現型におよぼすといえる。早期の全病変にRb遺伝子のヘテロ接合性の消失(LOH)が見られ、このモデルで腫瘍が形成されるにはRb遺伝子の完全な欠失がやはり必要だとわかった。Rb+/-Arf-/-マウスに起こる腫瘍形成促進は、Rb遺伝子座のヘテロ接合性の消失の後にArf遺伝子の欠 失が腫瘍細胞の増殖を加速することで説明できるかもしれない。
は、Arf遺伝子の欠失は下垂体腫瘍形成に不可欠なのだろうか。そうではないらしく、Rbヘテロ接合性でArfもヘテロ接合性のマウスでは、
rfのLOHは調べた腫瘍の一部にしか起こっていなかった。
れゆえ、Rb遺伝子の欠失とは異なり、Arf遺伝子の不活性化は絶対必要な過程ではない。Tsaiらは、ArfのLOHは初期の腫瘍細胞の増殖を選択的に有利にするかもしれないと述べている。
saiらは、Arf遺伝子がp53とは無関係な腫瘍抑制様式を調節しているとする仮説を立て、この腫瘍抑制機構は腫瘍タンパク質Mdm2のp53とは無関係な機能の調節によるのではないかと述べている。
doi:10.1038/nrc1005
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