細胞死の回避
Nature Reviews Cancer
2003年2月1日
p53のアポトーシス誘導能は、癌を防ぐ鍵になる機構である。それでも癌が発生するということは、この防御機構が万全ではないことを示す。しかし、癌の発生を常にp53のせいにはできない。p53を調節する各種タンパク質にも同じくらい過失があり、それらのタンパク質の同定と特性解析が絶対必要だ。以前に Xin Luの研究グループは、p53の強力な活性化因子として作用する2種類のASPPタンパク質、すなわち、ASPP1とASPP2を同定した。今回LuらはNature Genetics誌に、このp53調節性タンパク質ファミリーに属する第三のタンパク質を同定したことを報告している。ただし、今回発見したタンパク質は、p53の阻害因子として作用する。
uらは、p53の調節にはASPPタンパク質が重要なことを確認したので、もっと取り扱いが容易な生物モデルである線虫を実験材料にした。ところが、ASPP1およびASPP2遺 伝子を用いた相同性検索では、Caenorhabditis elegans(線虫)には1種類のASPP遺伝子しか見いだされなかった。そこで、RNA干渉法(RNAi)を利用して遺伝子機能を破壊したところ、アポトーシスを起こす生殖細胞の増加が見られた。以前に同定された2種類のASPPタンパク質がアポトーシスの前段階の機能をもつことを考えると、これは驚くべき観察結果だ。線虫の場合と同じように、ヒト細胞系でアンチセンスRNAを利用して遺伝子機能を抑制した場合も、アポトーシスの増加が引き起こされた。これらの知見から、新たに同定されたASPPタンパク質はアポトーシスを阻害する作用をもつと考えられ、iASPPと命名された。
uらは、免疫沈降物の共沈法を利用し、iASPPがp53と結合することを示した。続いてiASPPの結合部位を調べ、p53のSH3ドメインに結合することを示した。このp53上の結合ドメインが3種のASPPタンパク質のすべてに共通することを考慮すると、これらのタンパク質がp53をめぐって競合すると考えてもおかしくない。そして、これは事実であることが判明した。iASPPの量が増加すると、p53とともに免疫沈降するASPP1およびASPP2が減少し、逆にASPP1とASPP2の量を増やすとp53と共沈するiASPPが減ったからである。さらに、生体内でiASPPが発現すると、アポトーシスの前段階でのASPP1とASPP2の機能が阻止された。
ASPPは、p53を阻害する能力をもつことから、腫瘍形成性をもつと考えられる。そして、試験管内でiASPPが発現するとRASを仲介とした悪性形質転換が刺激されることが 証明され、この主張が裏づけられたのである。さらにLuらは、野生型のp53タンパク質と正常値のASPP1およびASPP2タンパク質をもつ数種の癌ではiASPP1タンパク質が過 剰に発現していることを見いだした。
53にASPP1とASPP2が結合すると、p53が細胞死促進遺伝子群の発現スイッチを入れる能力が増大する。このとき、細胞周期を止めるp53調節性遺伝子群へのp53の結合は増加しない。Luらは、iASPPが関与するアポトーシスでも同じ特異的遺伝子群が発現調節を受けることを観察した。今後の研究により、iASPPがASPP1とASPP2に対して優性阻害効果をもつのか、それともiASPPはp53を直接阻害するのかが明らかになるだろう。
ASPPがp53を阻害するしくみがどうであれ、今回明らかになったのは、アポトーシス誘導にかかわるp53の機能がASPP1とASPP2によって刺激され、iASPPによって阻害されるということだ。同じファミリーを構成する近縁タンパク質が、正反対の役割をしているのである。
doi:10.1038/nrc1009
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