Research Highlights

大量破壊兵器

Nature Reviews Cancer

2003年2月1日

ウロキナーゼ経路は、癌の浸潤や転移を含む生理学的および病理学的組織改編過程に関与している。ヒトのほぼすべての癌では、ウロキナーゼというプラスミノーゲンアクチベーター(uPA)とその受容体(uPAR)の両方が過剰に発現している。しかし正常組織では、組織の損傷に対する急速な応答の場合を除いては、uPAとuPARはごくわずかしか発現していない。BuggeおよびLepplaらは、炭疽(たんそ)菌毒素をもとにしてつくった標的攻撃型免疫毒素を活性化して腫瘍を強力に破壊する武器にするため、この腫瘍関連uPA系の特性を活用した。

疽菌毒素は、炭疽菌によって3種類の抗原として分泌される。その1つの防御抗原(PrAg)が、遍在的に発現されている細胞表面受容体(腫瘍内皮マーカー8)に結合し、フューリンプロテアーゼ群によって切断されて他の2種の抗原との複合体を形成すると、毒素が活性化される。この複合体の活性部分が融合タンパク質59(FP59)に結合すると、翻訳伸長因子2が阻害されて細胞は死に至る。Buggeらは、PrAgを修飾し、uPAによって切断されるがフューリンによっては切断されないようにした。癌細胞だけが標的攻撃を受けるようにしたのである。

は、これらの免疫毒素はどのくらいの毒性があるのか。ちょうど2μgの天然の炭疽菌毒素、すなわちPrAgをFP59とともにマウスに投与するときわめて強い毒性が観察され、数時間以内に広範囲にわたる臓器の損傷が起こってマウスは死亡した。これとは対照的に、修飾した毒素、すなわちPrAg‐U2は、30μgまで投与してもまったく毒性を生じなかった。次にBuggeらは、ウロキナーゼによって活性化されるプラスミノーゲン(Plg)を含むウロキナーゼ経路の中心的構成成分が完全に欠損したマウスを用い、uPA系がPrAg-U2 の活性化に不可欠なことを示した。野生型マウスに40〜200μgのPrAg-U2とFP59を投与すると死亡したが、 uPA-/-、uPAR-/-およびPlg-/-マウスは健康を保持していた。また、uPAインヒビター遺伝子欠損マウスは、その毒素に高度感受性だった。この結果は、uPA経路の構成成分が生体内でのPrAg-U2の活性化に不可欠なとを示している。

のようにPrAg-U2は、腫瘍関連ウロキナーゼ系によって特異的に活性化されることがわかった。そこでBuggeらは次に、定着性繊維肉腫、黒色腫および肺癌を有するマウスを使ってPrAg-U2毒素の腫瘍破壊活性を調べた。これらの腫瘍は、従来の治療法ではあまり反応を示さない。PrAg-U2はこれらの腫瘍の大きさを85%以上縮小させた。また、PrAg-U2をたった1回投与しただけで67%のマウスの繊維肉腫のすべてが完全に消失した。アポトーシスの増加はまったく見られなかったことから、PrAg-U2毒素は壊死による細胞死を誘発するといえる。

の改変処理した毒素は、正常組織にはまったく毒性を示すことなく腫瘍増殖を抑制し、定着性腫瘍を破壊した。uPAは上皮腫瘍、間充織腫瘍および造血系腫瘍の細胞に過剰に発現しているので、この毒素を利用した戦略は広範囲の作用をもつ抗腫瘍療法として有望である。Buggeらは、プロテアーゼの特異性を増したり、炭疽菌毒素の代わりに他の毒素タンパク質を使ったりする修飾も可能だと言っている。すでに医療現場で使用されている免疫毒素の治療指数も、この戦略を適合させれば改善されるかもしれない。

doi:10.1038/nrc1004

「レビューハイライト」記事一覧へ戻る

プライバシーマーク制度