日焼けの影響を受ける標的分子
Nature Reviews Cancer
2003年3月1日
子供のころ過度に日焼けすると、年を取ってから黒色腫を発症する危険度が増加するとされているが、日焼けによって生体分子に何が起こり、どのように腫瘍形成が開始 されるのだろうか。Lynda Chinらが今回 Proceedings
f the National Academy of Sciences誌に報告しているところによれば、紫外線(UV)の光に起因する変 異誘発の重要な標的は、網膜芽細胞腫(RB)経路の複数の構成要素である。
V光照射が生体分子におよぼす影響を調べるため、Chinらはマウス黒色腫モデルを利用した。このモデルでは、活性化されたHras導入遺伝子
Tyr-Ras)と、(Cdkn2a遺伝子が指令する)ArfおよびInk4aという2つの癌抑制遺伝子産物のいずれかの欠失によって黒色腫が発症する。ARFタンパク質はp53タンパク質を安定化する作用があり、サイクリン依存性キナーゼ(CDK)阻害因子のINK4AはRBのCDK4 およびCDK6依存性リン酸化を妨げるので、ARFとINK4Aは細胞周期の進行の阻害を引き起こす。INK4Aは、UVの光に誘起されて生じる遺伝子の変異がヒトの黒色腫で見いだされているため、UVの光に起因する変異誘発に関与するとされてきた。とはいえ、UV の光によらない癌でも類似の変異が起こることから、この関連について疑問がもち上がっていた。
V照射したTyr-Ras Arf-/-マウスでは、UV未照射の遺伝子導入マウスよりも初期にずっと多くの黒色腫が発生した。ただし、これらのマウスでは腫瘍の自然発症もいくらか見られた。UV 光がHRASおよびARFタンパク質と協同して腫瘍を形成することを示してから、ChinらはこのモデルでUV光がRB経路のINK4Aタンパク質におよぼす影響を調べた。Ink4a機能の消失は、UV照射したTyr-Ras Arf-/-マウスに生じた腫瘍の22%で確認された。22%ということは、 UV未照射マウスで観察された50%よりも少ないことになる。その代わり、Cdk6 遺伝子の増幅と過剰発現がUV照射マウスの46%に見られ、UV未照射マウスではまったく見られなかった。Ink4a機能が消失した腫瘍ではCdk6遺伝子の変化は見られず、 逆に
dk6遺伝子が欠失した腫瘍ではInk4a機能の消失は見られなかった。 このことは、Ink4a遺伝子とCdk6遺伝子が同一の表現型をもたらすという事実と矛盾しない。Rbタンパク質自体の消失はどの腫瘍にも見られなかった。
RFタンパク質とは対照的に、Tyr-Ras Ink4a-/-マウスでのINK4Aタンパク質の欠損はUV光と協同して黒色腫発生を促進しないことをChinらは観察した。 UV光が広範な変異誘発作用を示すという有力な仮説を考慮すると、これは意外な発見であった。その代わり、この結果からUV光がもっぱらRB経路を不活性化攻撃の標的にすることがわかった。それゆえChinらは、UV照射はInk4aの消失またはCdk6の増幅によってRB経路を不活性化し、黒色腫の危険度を増加させるという仮説を立てている。 Chinらの研究結果から、過度の日焼けの経験者を対象にしてINK4A、CDK6などのRB経路構成要素を解析すれば黒色腫を発症する危険度が特に高い患者の早期発見に役立つかもしれないと考えられる。進行した黒色腫の有効な治療法はないので、これらの癌が早期発見されるようになれば臨床上重要な進歩になろう。
doi:10.1038/nrc1033
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