Research Highlights

癌を洗い流せ

Nature Reviews Cancer

2003年3月1日

大腸癌は世界で3番目によく見られる腫瘍である。しかし、疫学者は長い間この病気の発生率が開発途上国では低いという事実に悩まされている。さらに大腸癌と腸内毒素原性大腸菌感染には、説明のつかない逆相関が存在する。実際、年齢調整大腸癌発生率は、腸内毒素原性大腸菌感染率の高い開発途上国で最も低い。Pitariらは、これらの細菌が大腸癌を予防するかもしれない機構についてProceedings of the National Academy of Scienceで述べている。

内毒素原性大腸菌のつくり出す耐熱性ペプチド(ST)は、この細菌感染に関連した下痢の原因になる。STはその構造が内因性ペプチドであるグアニリンやウログアニリンに似ているため、このやっかいな症状をひき起こすらしい。グアニリンとウログアニリンは腸管液や電解質恒常性の調節を仲介する。STはこの構造により、腸上皮細胞で特異的に発現しているグアニリルシクラーゼCへの結合が許され、 GTPの環状GMP(cGMP)への変換が活性化される。そして下流の情報伝達経路が活性化される結果、分泌性の下痢が起こる。

アニリルシクラーゼC、およびグアニリンやウログアニリンも同じく、癌の進行中にひんぱんに発現が欠損する。したがって、これは腫瘍抑制経路であるかもしれない。この着想を裏づけるように、マウスグアニリン遺伝子の不活性化は大腸腫瘍の増殖を促す結果となった。それでは、この経路はどのように癌を防ぐことができたのか。Pitariらはヒト大腸癌細胞のcGMP情報伝達経路を研究し、癌細胞にSTを加えると細胞内cGMP濃度が高まり、またDNA合成と増殖が阻害されることを見いだした。グアニリルシクラーゼC無発現腫瘍細胞ではこれは起こらなかった。したがって、cGMP情報伝達はSTの増殖抑制効果にかかわっているはずである。ST処理癌細胞をさらに調べると、抗増殖作用は従来の(プロテインキナーゼGとホスホジエステラーゼ ‐3が関与する)下流cGMP情報伝達経路を介していないことが明らかになった。しかし、どのようにしてcGMP生産が大腸癌細胞の増殖を防いでいるのだろうか。

GMPは環状ヌクレオチド依存性(CNG)チャネルを活性化することも示されている。 PitariらはSTが大腸癌細胞中のこれらのチャネルを活性化し、Ca2+の直接流入を導くことを発見した。細胞外Ca2+の減少はSTの癌細胞増殖抑制 能をだめにする一方、Ca2+レベルの増大はSTの抗増殖効果を回復させる。これはCNGチャネルによる細胞増殖制御を示した最初の研究である。ST誘 導Ca2+流入がDNA合成を制御する機構を決定するにはさらなる研究が必要である。とはいえ著者らは、腸管の塩類と水の輸送過程にかかわる薬剤の経口投与により大腸癌を予防あるいは治療できる可能性を示している。

doi:10.1038/nrc1038

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