2つあると1つよりひどくなる
Nature Reviews Cancer
2003年4月1日
乳癌症例の多くは、エストロゲンに依存して腫瘍が進行する。エストロゲン受容体(ER)の働きを変化させるタモキシフェン(tamoxifen)による治療が効果を上げ、乳癌による死亡がかなり減少してきたが、タモキシフェンが効かなくなる患者も多数見られる。C. Kent Osborneらが今回、ER陽性の乳癌患者では、上皮増殖因子受容体ファミリーに属するERBB2タンパク質(HER2/neuともいう)の発現量の増大とエストロゲン受容体補助活性化因子のAIB1の過剰発現が重なると、腫瘍のタモキシフェン抵抗性に結びつくことを示している。
sborneらは、乳癌治療後の経過を長期間追跡中の316人の患者由来の腫瘍標本を調べた。アジュバントのタモキシフェンを投与された187人の患者では、AIB1発現の増大が治療後の経過不良および無再発生存率(DFS)の低下と関係していた。
APK(mitogen-activated protein kinase、分裂促進因子活性化プロテインキナーゼ)を介したERBB2情報伝達は、ERとAIB1の両方を活性化する。ERBB2発現の増加が腫瘍のタモキシフェン抵抗性に関係することがいくつかの研究によって指摘されている。では、ERBB2とAIB1は相互作用によってタモキシフェンに対する腫瘍の応答に影響を及ぼすのだろうか。Osborneらは、タモキシフェン治療を受けなかった場合は、AIB1発現量に関係なく、ERBB2発現量が高い患者の方がERBB2発現量の低い患者よりも治療後の経過が悪いことを見いだした。ところが、アジュバントのタモキシフェンを投与された患者のERBB2と AIB1の発現量がともに高い場合は、さらに治療後の経過が悪くなり、これらの患者のDFSは42%だった。これに対して、ERBB2とAIB1の発現量がともに低いかあるいはどちらか一方のみが高い患者のDFSは70%だった。
たがってOsborneらの結果から、ER補助活性化因子はタモキシフェンのERアゴニスト(作動薬)活性を増強するのでAIB1発現量の高い患者にはタモキシフェンは効きにくいという実験室での研究結果が確認されたことになる。腫瘍のタモキシフェン抵抗性におけるAIB1の役割から、タモキシフェン投与を受けた患者のERBB2発現量だけを調べた以前の研究では、タモキシフェン抵抗性とERBB2発現の相関に矛盾がみられた理由が説明されるかもしれない。
doi:10.1038/nrc1077
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