Research Highlights

耐性をもたらす変異

Nature Reviews Cancer

2003年5月1日

キナーゼ阻害剤のイマチニブ(日本での商品名はグリベック)を病気の進行がゆるやかな慢性期の慢性骨髄性白血病(CML)患者に投与すると、病気を完全に鎮静化することができる。ところが、病状が急激に進む急性転化期の患者では、CMLの原因になるBCR-ABL融合タンパク質のキナーゼドメインに変異が起こって薬が効きにくくなることがしばしばある。Azamらは、種々の変異を誘発したBCR- ABLタンパク質を全体的 に調べる試験管内検査法を開発し、薬が効きにくくなる薬剤耐性を賦与する変異をさらに包括的に描いてみせた。

ナーゼの典型的なものは、「開いた」(活性型)いくつかの状態と「閉じた」(自己阻害型)状態の平衡がとれた状態で存在する。イマチニブとABLのキナーゼドメインを同時に結晶化して解析した実験の結果から、この薬は閉じた立体構造のABLキナーゼを捕捉することによってCMLの発病にかかわる分子への特異性を獲得することがわかっている。それゆえイマチニブが効かなくなる患者の多くは、BCR-ABL融合タンパク質のキナーゼドメインの内部に変異を抱えている。たとえば、薬がBCR-ABLキナーゼの活性部位を占有するのを立体的に妨げる変異、BCR-ABLキナーゼにリン酸が結合するP‐ループを変化させる変異、あるいは活性部位を取り巻くループの立体構造に影響を及ぼす変異などが発見されている。それぞれの変異によって、イマチニブに対する耐性度は違ってくる。

zamらは、BCR-ABLタンパク質のキナーゼドメインだけでなく、他のドメインの変異も薬剤耐性に関与するかもしれないと考えた。この可能性を検討するため、AzamらはDNAの修復に欠損がある細菌菌株にBCR-ABL遺伝子を導入して増殖させ、 BCR-ABL遺伝子の無作為な変異を誘発させた。この選抜法により、90個のアミノ酸残基に別個のアミノ酸置換をもつ112種類の変異タンパク質が単離された。Azam らは65種類の変異タンパク質のキナーゼ活性を確認し、その中の59種類の変異タンパク質がイマチニブ処理に耐性を示すことを見いだした。これらの変異の中で、この薬が効かないCML患者で以前に同定されていたものはたった13種類しかなかった。では、これらの変異はどのようにして薬剤耐性を賦与するのだろうか。Azamらは、全部で26個の薬剤耐性関連変異がBCR-ABLタンパク質のキナーゼドメイン以外の部位に存在することを見いだした。その代わりこれらの変異は、(ABLキナーゼの自己阻害に関与する)キャップ領域、Src相同ドメイン2 (SH2)および3(SH3)、あるいはSH2と触媒ドメインの間のリンカー領域に位置していた。タンパク質構造のモデルを作製して解析したところ、これらの変異の多くはABLキナーゼの閉じた立体構造を不安定にするので、タンパク質の平衡状態が開いた活性型キナーゼの立体構造の方へ移動することがわかった。この立体構造になると、薬剤の結合が妨げられる。

れらの薬剤耐性型BCR-ABLタンパク質を解析することにより、患者に使う前に薬の効き目を予測することができるようになるだろう。たとえば、SH3ドメインやSH2ドメインの一部の領域に変異がある場合、低濃度の薬剤への耐性しか生じなかった。したがって、これらの領域に変異があることがわかった患者は、イマチニブの投薬量を増やして治療することが可能なはずである。Azamらはまた、非常に高濃度の薬剤耐性を賦与するP‐ループの変異をいくつか発見した。これらの変異が患者に起こることはまだ報告されていないが、これらの変異タンパク質をもつことがわかった個体にイマチニブの効果が現れるとは考えられない。また、変異のいくつかは、キナーゼ活性の上昇や病気の進行の加速と関連があった。これらの変異は、患者の治療後の経過を予測するのに役立つだろう。

ell誌に同時掲載されたNagarらの論文とHantschelらの論文から、c-ABLチロシンキナーゼの構造と機能の解析結果およびこの選抜法で得られた多数の変異タンパク質のイマチニブ耐性機構の論理的基盤が得られる。

doi:10.1038/nrc1081

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