量的抑制効果
Nature Reviews Cancer
2003年5月1日
特定の遺伝子の働きを止めたノックアウトおよび条件マウスモデルを利用すれば、遺伝子発現が「オン」または「オフ」のときの表現型の違いを比較することができる。 しかし、現実に起こる変異は、このオンとオフの両極端の間の発現量を生みだすことがある。
ature Genetics誌の3月号の論文によると、Greg Hannon、Scott LoweらはRNA干渉(RNA interference、RNAiと略す)を利用して形質発現作用の不完 全な一連のp53タンパク質変異体を作出し、p53の発現量が疾患の程度に大きく影響することを示している。 Hannonらは、Trp53遺伝子を標的にするそれぞれ別個の短いヘアピン型RNAを含む3種類のレトロウイルスベクターを作出した。構築したこの3種類のウイルス(p53-A、p53-Bおよびp53-C)を培養細胞に導入したところ、 p53タンパク質の発現に 対する影響に差異が見られた。影響の差異は、マウス胚線維芽細胞(MEF)がコロニー形成検定法でコロニーを形成する能力の差異と合致した。p53-Aを発現させると、p53 タンパク質の発現量に対する影響が最も低く、少数のコロニーだけが増殖可能だった。一方p53-Cは、タンパク質の発現量をかなり減少させ、多数のコロニーが増殖した。では、これらのRNAi作用をもつ構築ウイルスは、細胞の腫瘍形成能にも影響を及ぼすのだろうか。Hannonらは、これらのRNA発現ベクターから産生されるウイルスを造血幹細胞に感染させ、4〜6か月齢でB細胞リンパ腫を発症するEμ‐Mycマウスに移植した。この造血幹細胞を移植した全マウスに、触れることが可能なリンパ節が3 〜5週以内に生じ、リンパ節の過形成が起こったことがわかった。ところが、p53-Bまたはp53-Cを受け取ったマウスだけがB細胞リンパ腫を発症し、対照のEμ ‐Mycマウスに比較して生存率の低下を示した。さらに詳しく解析したところ、p53-Bを受け取ったマウスに生じた悪性腫瘍は、p53-Cを受け取ったマウスの腫瘍よりも小さくて少なかった。p53- Bを受け取ったマウスの腫瘍は、依然としてアポトーシスを起こす比率が高く、分裂指数が低く、肺や肝臓に意味あるほどには浸潤しなかった。一方p53-C を受け取ったマウスの腫瘍は、アポトーシスを起こす比率が低く、分裂指数が高く、多量の浸潤が見られた。おもしろいことに、p53-Bまたはp53-Cを受け取ったマウスに生じた腫瘍は、Trp53-/-マウスに見いだされる腫瘍とは異なり、ゲノムの不安定 性を示さなかった。これらの結果から、p53タンパク質のアポトーシスにかかわる機 能が腫瘍の抑制にいかに重要かが確証される。Trp53遺伝子がヘテロ接合性のEμ‐Mycマウスでは、生じる腫瘍のすべてがTrp53遺伝子座のヘテロ接合性の消失を示す。RNAi作用をもつ構築ウイルスの発現はこの選択圧を軽減するのだろうか。p53-B保有マウスに生じた2つの腫瘍のうちの1つと、p53-C保有マウスに生じた4つの腫瘍の全部は、第2の野生型Trp53対立遺伝子を消失しなかった。このことから、ヘテロ接合性の消失 はRNAi作用をもつ構築ウイルスの存在下では腫瘍の発生に必要でないと考えられる。 Hannonらの研究結果からわかるように、RNAiは遺伝子の完全欠失表現型をつくりだすだけでなく、中間型の表現型を生み出すこともでき、タンパク質機能を分けて解析するのに役立つ。このRNAiを利用する手法は、治療にも興味深い影響を及ぼす可能性がある。安定なRNAiは生体外に取り出した幹細胞の遺伝子の有害な機能を抑制することができ、これらの遺伝子は生体内では機能を保持していることが示されている。
doi:10.1038/nrc1059
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